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「はい。今は控えめに生きてると楽だから、そうしています」
私は誰かのためじゃなくて、自分のために控え目にしているだけ。
「楽に生きるかあ。なるほど」
また、そのままに受け入れて貰えた。
軽蔑もされず、説教もされず。
「不思議な人ですね。店長さん」
「そう?…あのさ、名前も覚えるの苦手?」
「いえ。顔と一致させるのは難しいですけど、名前は覚えられますよ」
「俺の名前は?」
バカにしてる訳じゃないよって、ニュアンスが伝わってきた。何だか店長さんが楽しんでるみたい。だから、楽しい気分で答えた。
「『eternal』の店長さんの佐倉大樹さん」
「覚えてるのに、何で店長さん?」
「これには訳があって。不愉快な気分にさせるかも」
「怒らないので、教えてください」
「顔が覚えられないけれど、服装とか髪型で識別しようとするんです。あと、ものすごく特徴がある部分に注目するとか。
きっとこの人だろうと思っても、間違えたら失礼ですよね。名前を間違われるより、役職や所属を間違える方が、嫌な思いをさせないかなと思って」
「なるほど」
「例えば店長さん。松田さんですよね?より課長さんですよね?と間違われた方がマシじゃないですか?」
「本当だ!」
店長さんの驚きようが、本当にそう感じたみたいに見えた。とても、素直な人なのかもしれない
そう思った直後、なぜか店長さんは盛大に笑い始めた。どこがそんなにおかしかったんだろう?
「もう!爽やかに私の悩みを笑い飛ばしてくれますよね!?」
ほんの少し腹が立って、私はふてくされた。こんな遣り取りを家族やごくごく親しい人以外とするなんて、十年以上記憶がない。
ある期間を除いては。
駄目だ。こんなに楽しい気持ち。
後で、辛くなるだけだから。
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