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でも、あと少しだけ。
「なんか、いつも私のこと笑ってません?」
「いやだって、面白いよ。言われない?」
「あまり…」
「えらい楽しそうだね。お二人とも」
「この人冗談ばかり言うので可笑しくて」
店長さんは笑いながら言った。また、少し悔しい気持ちになる。だって、私の真剣さを笑うんだから。
「この人なんか、嘘ばっかりで」
店長さんは、更に笑い出した。
「まあまあ、二人とも仲が良いのを隠さなくても。こんな良い男と器量良しが一緒にいたら、誰も間に入れやしないよ」
そう言って去って行った。
「まあ、頑張んなさい!」
なぜかおばちゃんは、店長さんの背中を叩いた。この状況で励まされるの、私じゃないのかな?
「美花さん。なかなか本題に入れないから、場所を変えませんか?時間がまだ大丈夫なら、カフェとか」
「そうしますか。何だか今日のおばちゃん、私のことからかいたくて仕方ないみたいで」
立ち上がりつつ、話をしていた。
「可愛がられてるんですよ。美花さんの反応がかわいいから」
かわいいとおっしゃいましたか?
そんなこと、今まで一度たりとも言われたことありません。セクハラ的な発言は、山ほど受けてきたけれど。
真っ赤になっただろう私は、動けないくらいの衝撃。
椅子の背凭れに手をついて、少し落ち着くことにした。
「美花さーん、行きましょう」
店長さんに親しみのこもった声を掛けられて、私は思わず店長さんの顔を見返してしまった。見て覚えられるわけじゃないけれど、表情なら分かる。感じるのは、穏やかさと温かさ。迷惑や戸惑いは全く感じられない。
そのことが、私にはとても嬉しい。
店長さんは不思議に思ったのか、小首を傾げた。
私は嬉しいような、悲しいような不思議な気持ちになって店長さんを見た。
おばちゃんと何か楽しそうに遣り取りをしている店長さんは、きっと誰とでも親しくなれる人なんだ。
だから、私にも親しく口を利いてくれるだけ。
特別な何かを期待してしまいそうになるのを、私は一つずつ打ち消すことにした。
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