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何とか母親の意識を食事に向けたくて、俺は食べ始めた。
でも、思わず呟いた。
「旨い」
「これに、出汁と薬味か。これ、いい!お代わりしたい」
忙しく箸を動かしながら、言った。
「チヂミも食べていい?」
「どうぞ。あ、ラー油を少し入れて、辛味を足しても美味しいですよ」
「あ、これも旨い。飲みたくなる」
「もちもちして美味しい。何が入っているのかしら?」
両親ともに、既に焼酎を飲んでいた。父さんも、飲みながら首を傾げている。
「摺り下ろしたジャガイモを入れると、もちもちになるんですよ」
「そうなの?一手間が大事なのね。あー、美味しい」
俺は、彼女が食べきれずにいたおにぎりまで食べた。父親がまた笑って見ているけど、良いだろう?と笑い返した。
「ごちそうさまでした。大樹のお付き合いしている方に会えて、こんな美味しいお料理まで頂いて。嬉しいわ。」
「こちらこそありがとうございます。すっかりご馳走になりました」
「上りの電車少なくなるから、そろそろ美花を送るよ」
「大樹、こんなきれいなお嬢さん、玄関まで送らなきゃダメよ。あんたなんて帰って来なくて良いから」
「そうしようかな。もう、遅いし」
母さんは、冗談のつもりだったようだが、父さんは「行け行け」と言っている。彼女のことを、両親に誤解されないようにしたかった。でも、そんな心配は無用だったかもしれない。
「俺、美花の所に泊まるよ。店に近いし」
「大人とはいえ、大切なお嬢さんなんだから。大樹、今度美花さんのご家族にもきちんとご挨拶に行きなさい」
「もちろんその予定だよ。その方が先かと思ったら、会わせろって言うから」
母さんは、少しほっとした表情だ。
「ほら。行くよ。美花」
彼女は頷いた。
「強引なのはいつも俺なんだ。でも、将来のことも考えてるから、いい加減なことはしてない。父さん母さんには迷惑をかけないし、見守っていて欲しい」
「分かった。気を付けて。美花さん、また遊びに来てね」
「はい。今日はありがとうございました。失礼します」
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