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 気になったけれど、来客や電話の対応でしばらく携帯はお預け。メッセージの着信に気付いたのは一時間くらい後だった。 “大樹さんのお母様に会ったけれど、気付けなかった。もし、私のことで何か尋ねられたら、本当のことを伝えてください”  時間差があって、次のメッセージ。 “ごめんなさい”  マジかよ。なんで、こんなことくらいで悲観的になってるんだ?  取りあえず、仕事が終わってから祖母宅に出向いた。晴れた日だったから、段ボールが駐車場に積まれていた。念のために車に積んでいいか確認して、終わってから顔を出した。両親はまだいて、俺を待っているようだった。 「美花に会ったって?気付かなくてごめんなさいって言ってたよ」 「それは良いんだけど。彼女、視力が弱いの?ちょっと様子がおかしかったから」 「いや。視力に問題はないよ」 「何か、聞いてるのか?」  相変わらず、父親のこういう鋭さはすごいと思う。鬱陶しいときも多いけれど。 「生まれつき、顔を覚えるのが苦手なんだ。俺は最初から知ってた。承知の上で、彼女と付き合ってるし、将来も考えてる」 「でも、それって遺伝するものなの?」 「はっきりは分からない。日本ではそんなに研究が進んでいないんだ」  付き合い初め、彼女に会えない時に、勇気を出して調べてみた。“相貌失認”というらしい。遺伝する可能性はあるらしいけれど、彼女は工夫したり努力したりして仕事もしている。寂しさや辛さを埋めることが、難しいとは思うけれど。 「彼女と家族になることに、俺は何の不安も支障も感じてないよ」 「でも、大樹…」 「それを理由に別れろって?」  何だか無性に腹が立って、拗ねたような言い方になってしまった。 「そんなことを言っているわけじゃない。丸ごと受け止めることも、予想外の出来事も大樹が想像する以上に大変だと思うの」
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