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 彼女にも、うまく関われない自分にも、苛立つだけだった。  翌日の朝。  eternalの事務所で何度も昨日のやり取りを思い返していた。 「うわっ」  聞こえてきた声の方を向く。 「店長、人相悪すぎですよ」  家にいると色々面倒な気がして、いつもより早く出勤した。既に花の手入れも開店業務も終わって、パソコンに向かっていたんだった。そこに、いつもの時間に出勤した朝からうるさい長坂が現れた。 「イケメン店長の名が廃る!」 「花売ってるだけだから。いいんじゃない?イケメンだろうが、そうじゃなかろうが」 「なげやり~。大丈夫ですか?」  これはまずい、と思った。長坂が労るとしたら、俺はかなり良くない状態のはずだ。 「冗談だよ」  そう言って長坂を見たら、目を逸らされた。どうやら、可哀想なものを見る目になっていたようだ。そんなときには目を逸らすようになってきたから。  髭は剃っている。服装も大丈夫。髪型か?パソコンの液晶画面に映るシルエットに問題はなし。 「目が鋭すぎます」  まるで、答えのように長坂の声が聞こえた。恐るべし。刑事か探偵と思ったけれど、違うな。予知能力でもありそうだ。 「はいはい。気を付けます。経営状態がよくなくて、ついね」 「黒字続きの癖に」  長坂の呟きはスルー。でも、経営状態が良いからこそ、丁寧な対応が大切なのは間違いない。個人的なことで不機嫌だとか、情けない。だから、力不足なんだ。  長坂の前で素になってしまうのも、ただ甘えているだけだ。俺がそんな風にさらけ出して良いのは…。と考えてしまう。 「天気よくなりそうだから、裏の掃除してくる。こっち頼んだぞ」 「はーい」  長坂は何も聞かなかった。その辺り、よく空気を読める奴だ。  俺と彼女には、こんな時間も必要だと言い聞かせる。
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