02 半夏生

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 隠す必要もないので、ありのままに空間デザインをしていると答えた。  花のアレンジと共通することもあって、話していてとても楽しかった。  たぶん、店長さんは聞き上手だ。  どんどん話してしまいたくなるから、本題に入れない。  しかも、店長さんが口にする言葉は常に温かい。   「私の場合は期間が短い上、飾るものです。でも、美花さんのお仕事はそこに用途や使い勝手、それにクライアントの要望とか色々な要素が加わりますよね」  私は驚いた。  何でわかるんだろう。  花のアレンジも似ているのかな。 「よく分かりますね」 「仕事で商業ビルに入ることもあるから、なんとなく」 「はい、お待たせしました。特盛ロースカツ定食にヒレカツ定食」  いつものおばちゃんの声だ。 「ありがとうございます」  久しぶりだから、笑顔を見せた。  いつも、ちゃんと食べているかとか、仕事はどうだとか声を掛けてくれる。社交辞令だとしても、優しい言葉とその声は、疲れた胸に沁みる。 「ご飯と豚汁、キャベツのお代わりは無料だから、声掛けてねー」 「いつ見ても、おいしそう!」  私は、花を目の前にしたときのようにご機嫌だ。この店に来るのに、1ヶ月も間が空いたのは初めてかも。きっと、満面の笑みになっていたんだと思う。  茶化すような、店長さんの声。 「べた惚れですね」 「お花の次に、好きなんです」 「ここには、お仕事の方と?」    そうか、普通の女性はとんかつ屋さんに行かないものなのかな。私は顔が熱くなった気がして、一瞬俯いた。
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