色移り

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色移り

 彼女が洗面所で大騒ぎするので、なにごとかと覗いてみると、洗濯機の周辺が水浸しになっていた。  蛇口が壊れたのかと思って、洗濯機に繋いである蛇口を締めてみたら、ぷしゅしゅーっと噴き上がっていた水しぶきはすぐに止まった。  それでも噴き出していた水の量は僕が思うよりも多くて、フローリングを伝って廊下へと流れてゆく。さらに廊下から玄関へと水の先頭が走り始めている。水は止まったはずなのに、流れは止まらない。  僕は両手にタオルを持って、水の先頭を追いかける。やっと追いついた頃には、玄関にある靴の底が少しだけ濡れ始めていて、慌ててかがんだ僕の肩が靴箱に当たり、靴箱の上の写真が転げ落ちてしまった。  僕は水の先頭の進行を止めるべきか、落ちた写真を拾い上げるべきか、一瞬のうちには判断ができなくて、タオルを持ったまま動けずにいた。  僕の目の前で、二人が映った写真が流されてゆく。出会った頃の二人の写真は何も知らずに笑ったまま、流されて玄関のドアに堰き止められる。写真の角の尖った部分がドアに当たり「カッ」という音が響いたが、水はそのまま玄関のドアの下をくぐって流れていった。  玄関のドアに堰き止められたのは僕と彼女が映った写真だけで、水に濡れてふやけた写真は乾かしても元に戻りそうにない。  濡れてしまった写真のことは諦めて、フローリングに水が流れた跡を拭き取った。使ったタオルはダメにする候補トップ5ぐらいだったので、水と汚れを一緒に吸い取ったまま洗いもせず捨てることにする。  全てを拭き終えて、僕は洗濯機を点検した。洗濯機が水を噴きだした原因は、黒い何かの破片だったらしい。取水口のホースに繋がるトラップに、プラスチックの破片のような黒い塊が二つほど詰まっていた。
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