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8歳
五月連休はじいちゃんちで、船に乗って釣りをするのが一番の楽しみだった。ボクは明智隼人。菜の花小学校3年1組。妹のまみは菜の花幼稚園の年長さんのきりん組。
父さんは船酔いするって絶体に乗らなくて、母さんは、あらまぁまぁほほほ、と眉を下げてまみをしっかり抱っこした。
「俺が同行しますわ。美弦も一緒にいっすかね。お義父さん。」
「おう、頼む。朔も行くか?」
従兄弟の美弦くんのお父さんの村里さんの後ろで女の子も眉を下げて僕に行ってらっしゃいと手をふった。ヘブンブルーアサガオを初めて見た時みたいに、初めて会った女の子にボクはポカンとした。すごくきれいだった。
じいちゃんちにはゴンザレスごんぞうがいる。船にも着いてくる。モシャモシャした白茶黒で折れ耳のコリー犬くらいおっきなシェルテイ。夕方はボクがさんぽにつれていってあげる。
「お散歩一緒に行こうかな?」
向日葵色のサンダルで付いてきたのは船に乗らなかった女の子のさっちゃん。母さんより背が低いけど、ボクよりもおっきいお姉さんだ。すそがバラバラにひらひらするタマゴイロのワンピースがオトナっぽい。
「あの、さっちゃんもじいちゃんのまごですか?」
「んん?」
さっちゃんは眉を下げる。
オトナは困るとみんな同じ顔をする。さっちゃんは中学生くらいなのにオトナみたいな態度で、ヤンチャなゴンザレスもオトナシクなる。角を曲がったところで手をふる母さんが見えた。
「隼人ー!美弦くんのママも来たよー!晩ご飯だってー。」
「帰ろっか。」
さっちゃんがゴンザレスのリードを僕の手から受け取る。ゴンザレスは途端に尻尾を下げてじいちゃんちに向かって走り出して、さっちゃんは空いたボクの手をきゅっと握って、よーいどんっ、って笑って駆け出した。さっちゃんは走りながら振り返って僕をみて、転ばないでね、って言ってたくせに躓いてゴンザレスを踏んづけて、ゴンザレスを巻き込んで転がった。ヒャウーッヒャンヒャン!!とセツナイ声でゴンザレスが叫んで、さっちゃんはまんまるにした目のまんま、はぁちゃん、ごめん、びっくりだね!って笑ったんだ。周りがキラキラして、父さんと行くパチンコの天使が現れるエフェクトみたいにキラキラして、はぁちゃん?とボクを呼ぶさっちゃんはその天使よりきれいだった。
「ゴン!?ちょっとゴン大丈夫?!何やってんの!ドジなんだから、、はぁちゃん、おねえちゃんに巻き込まれなかった??転んでないね?」まきこんでないよ、とっさに手も放したもん、ゴンが引っ張っるからこけたんだよ。ってさっちゃんはぷくっとほおを膨らませる。
「ゴンが悪い。」
「ゴンは悪くない。」
「いいから、さっさとお入んなさい。玄関で騒がない。はぁちゃん、ゴンもおいで。」
おばぁちゃんに怒られて美弦くんママとさっちゃんは、はぁい、と返事して、おばあちゃんの見てないところでけっ、と舌を出し目配せしあってた。美弦くんママとさっちゃんのぷくっとふくれたほっぺのカオは似ていて、母さんとまみみたいにみえた。
そっか。さっちゃんは美弦くんのおねえちゃんなんだ。だからボクのイトコってことだ。
「イトコと結婚出来る?」
「あらあらまぁまぁどうしましょう。」
日菜子ちゃんはハトコだからいいのかしらねえ、と母さんは片手で口元を抑えて眉根を下げた。日菜子ちゃんは父さんの兄さんの子で、あれ?ハトコ?じゃあさっちゃんもハトコ?こんがらがる。
「さっちゃん!夜は花火する?」
うん!するよ!とさっちゃんはキラキラと笑って、座ってるソファにボクを手招きする。ゴンザレスみたいな扱いだなと思ったけど、近ずくとぎゅうっと抱きあげてソファに乗っけた。バクバクと心臓が痛くてかぁっと顔が熱くなった。
あ、コレ、知ってる。
ボク、さっちゃんがすきだ。
そう思った。
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