清々堂々

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 台の上で、ぐたっとうつぶせになっている清々に、今日も俺は一眼レフを向ける。シャッターを押すと、まるで自分が一四歳の少年に戻ったかのように思われた。  見た目からは変化が分かりづらいが、清々も二三年分歳を取って、二五歳になった。人間で言えば七〇才前後らしい。二頭のメスパンダの間に、一四頭の子供を授かり、種の保存に大きく貢献している。日本で飼育されているパンダの中でも最高齢の、まさにレジェンドだ。  朝一番に清々たちを見に来る常連たちとは、いつも一言二言話す関係になっている。大体が俺より年上で、この日も五〇代の湯川が話しかけてきてくれた。  話題はお腹に一五人目の子供を身ごもっているメスの楊浜(ヨウヒン)について。今は展示されていないが、元気に過ごしているらしい。  ふと周囲に顔を向けてみると、さすがは休日。さすがはパンダ。この状況下でもそこそこ混んでいる。  その中で、俺は少し離れたところで清々を見ているひとりの女性に気がつく。  短い黒髪が小さい横顔に似合っていて、おそらく二〇代前半だろう。  話しかけることなんてできるはずもなく、三〇分間、俺は清々を目に焼きつけた。
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