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第2話:契約
「契約?」
一は聞き返した。
「はい。契約です」
死神は微笑みを崩さずに言う。
「藤井様は自分をいじめてくる人たちを殺したいのでしょう? 私がそのお手伝いをさせていただきます。」
「……なんでそんなことを提案するんだ? 君にメリットがないじゃないか。そんなことをせずに今ここで僕の魂を獲ればいい」
「メリットなんていりませんよ。私は藤井様が人生に悔いを残さないようにと思っただけのことでございます。慈善事業のようなものです」
「……」
一は疑いの目を向ける。そんなうまい話があるわけない。
「その目、藤井様は警戒心がお強いようですね。そうですね、強いてメリットを挙げるとすれば、その藤井様をいじめている方々の魂も私の手柄になるというくらいでしょうか」
一の疑いはそれでも消えなかったが、どうせ死ぬんだと考えたらどうでもよくなった。
「その手伝いってのは具体的には何をしてくれるんだ?」
「私が持つ死神の力をお貸しいたします」
「死神の力を……?」
「ええ」
死神は右手を横に伸ばした。瞬間、その右手には大鎌が握られていた。どこからか取り出したようには見えなかった。何もなかった空間に突如として大鎌が現れた感じだ。
「この大鎌で藤井様が殺したい人物を斬りつけてください。そうするだけで斬りつけられた人物は無条件で死にます。血は出ません。死因は人間には解明不可能なのでご安心ください。。もちろん、この大鎌は一般人には見えません。まぁ、見せたい相手にのみ見せることも可能ですがね。ともかく、あなたが殺したことは誰にもバレません。絶対に。」
一は静かに死神の言うことを聞いていた。
「けど、そんな大鎌を持っても使いこなせない。僕をいじめてる奴らは皆ガタイがいいんだ。僕がそんな大鎌を持っても勝てない……。君が直接奴らを……」
「私が殺っても意味が無いんですよ。その人を殺したいのは藤井様、あなたでしょう。それに大丈夫です。死神は腐っても神ですよ。身体能力は人間時とは比べものにならにくらいに上昇しますよ」
一は考えた。僕にできるのか。奴らに反撃できるのか。死神の力があっても今までと同じように殴られるだけじゃないのか。
そんな一の様子を見て、死神は言う。
「あなたの未練はそんなものだったのですか? 思い出してください。あなたが今までに受けた仕打ちを。思い出してください。その時に感じたあなたの怒りはその程度だったのですか?」
一は思い出した。長い間受けてきた暴力を、屈辱を、嘲笑を。
「やる。やるよ。僕はあいつらを殺す!!」
死神はその言葉を聞くと、言った。
「流石でございます、藤井様。では、契約成立でございます」
死神は大鎌を消し、一の頭に右手を当てた。
「そうだ。最後に注意点がございます。死神の力を使用できるのは3日間、72時間でございます。72時間後になりましたらまたこの屋上に来てくださいね」
「ああ。分かった。」
一は目を閉じた。
「では、藤井様。人生最後の3日間をどうぞ有意義にお使いくださいませ」
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