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第4話:笑み
「おう、健次」
「ん? ああ、剛か」
ホームルーム10分前の通学路で健次と剛は会った。周りの生徒が小走りで急いでいるにも関わらず彼らはゆっくりと自分たちのペースで歩いていた。
「今日カラオケどうよ?」
「良いね。けど、その前にあのATMから金巻きあげないと。金ねぇ」
「ああ、一か」
そんなことを言いながら彼らは下駄箱を開ける。ちょうどホームルーム開始のチャイムが鳴ったが、彼らには関係ない。
「つーか、隆史来てなくね? あいつまた遅刻かよ」
「あいつなら寝坊だろ。ん? なんだこれ?」
健次の下駄箱に1通の封筒が入っていた。
「おいおい、それラブレターってやつじゃねぇの? 早く開けてみろよ」
「ちょっ、そんな急かすなよ」
健次はまんざらでもない様子で封を開く。
『山岡健次 様
村下剛 様へ
昨日、お二人のお仲間である笹山隆史様の魂を頂戴いたしました。
本日中に村下様の、翌日中に村上様の魂を頂戴しに参上いたします。
死への恐怖に震えながらそれまでお待ちください。
三日間の死神より』
「三日間の死神ィ?」
健次と剛は顔を見合わせて笑った。
「おい、み、三日間の死神だってよ。朝から笑わせてくれるぜ」
「イタズラにしても程度が低すぎるぜ。幼稚園生かよ」
一通り笑うと健次はその手紙をくしゃくしゃに丸めその場に捨てた。
「おい、健次捨てるなよ! せっかくだから隆史にも見せてやろうぜ」
「無理だろ。だって隆史は魂獲られちまったんだろ?」
「あ、そっか。そうだったわ」
そんなことを言いながら自分たちの教室まで向かう。
「すいませ~ん。遅刻しちゃいました~」
反省の色がまったく感じられない声で謝罪を述べながら二人は堂々と教室の前の扉を開けた。教室がざわついた。二人は教室がいつもとは何か違う雰囲気であることを感じた。クラスメイトから何か気の毒そうな目で見られてるような気がした。
「な、なんだお前ら! ただ遅刻しただけだろうがよ」
そんな二人を見て教壇に立つ担任が意外そうな顔をしながら言った。
「なんだ。二人はまだ知らなかったのか。いいか。落ち着いて聞いてくれ。昨日、笹山隆史が亡くなった」
「は……?」
「な、なに言ってんだよ。隆史が死んだって……そんな……」
「本当なんだ」
絶句している二人をクラスメイトたちは静かに見ていた。その同情の視線の中に一つだけ他とは違う視線があった。その視線は健次たちが入ってきた教室の前の扉のすぐ近くの席からだった。その席には藤井一が座っていた。眼鏡をかけていない一が。一は笑っていた。
「てめぇ!!!」
剛は座る一の胸ぐらを掴んだ。
「てめぇ、何笑ってるんだよ!!」
「笑ってるように見えた? ごめんごめん。そんなつもりはないんだ。」
こらえきれない笑みを浮かべながら一は言う。
「お悔み申し上げるよ」
その笑みを見た剛はゾッとした。今までの一からは感じたことのない気配を感じたのだ。それに目が赤く染まっていたようにも見えた。
「て、てめぇ……!」
剛が拳を振り上げるのを見て先生が止めに入った。
「やめなさい! 友達が亡くなって気が動転しているのは分かるが……」
剛は舌打ちをして拳をおろした。一の胸ぐらを乱暴に放し、自分の席へと向かった。健次は通りすがりに一に言う。
「昼休み……覚えてろよ」
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