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第6話:2人目
剛と健次は夜道を歩いていた。
「気を付けろよ……」
「……おう」
二人はとある分かれ道で止まる。ここからは帰り道が違うのだ。
「なにかあったらすぐに連絡しろよ。すぐに行ってあいつをボコボコにしてやるよ」
「心配し過ぎだって。何も起こらねぇよ。家もすぐそこだわ」
そう言う剛の声は少し上ずっていた。
「じゃあな、また明日」
「おう、明日な」
剛は夜道を一人で歩いていた。家まではここから5分もかからない。しかし、剛にはいつもの道が不気味に感じられた。いつもは気にならない街灯の点滅が気になってしまう。
「やぁ」
剛が点滅する街灯の下を通った瞬間、赤い目をした一はそこに現れた。
剛は飛びのき距離をとった。剛の心拍数は上がり、汗が噴き出る。
「そんなに驚かなくてもいいじゃないか」
街灯に照らされた一は笑顔だった。
「じゃあ、始めようか」
そう言った一の手には大鎌がいつの間にか握られていた。さっきまで手ぶらだったはずなのに。
その大鎌を見た瞬間、剛は家に向かって走った。死に物狂いで走った。全力疾走だ。戦うという選択肢は無かった。直観で感じてしまったのだ。戦ったら確実に死ぬと。
なんであいつが急に現れた!? さっきまで誰もいなかったはず。というか、あのでかい鎌はなんなんだ。あんな鎌持ってるなんて……まるで……。
走りながら剛は後ろを向く。一は大鎌を持って追いかけてくる。すごいスピードで。どんどん差が縮まっていく。赤い目がどんどん近づいてくる。
剛は前を見た。家が見える。剛は家まで残りのスタミナを絞り出し走った。ポケットから鍵を出し、素早く鍵を開け、扉を勢いよく閉める。鍵をすぐに閉めると、2階の自室まで階段を駆け上がった。家族に何か声をかけられた気がするが、剛の耳には入らなかった。
自室の扉を閉めると、膝から崩れ落ちた。
「はぁはぁはぁ、ゲホッ。はぁはぁ……」
鼓動はまだ早い。心臓の音がよく聞こえる。まるで心臓が耳に移動したみたいだ。全身から汗が出て、酸素不足で目の前が少し暗くなった。
剛はスマホを取り出し、健次に電話をかける。
『どうした。大丈夫か?』
健次は1コールで出てくれた。
「出た出た! あいつが出たんだ!! でかい鎌を持って……。ヤバい、あれはヤバい。殺される……」
『おい、一回落ち着け! 何言ってるのか分かんねぇよ!』
「ああ、悪い……」
剛は顔を上げ、深呼吸をしようとした。
「あんなに必死で逃げなくてもいいじゃん」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
剛が顔を上げるとそこには大鎌を持った一が当たり前のように立っていた。
剛は咄嗟に手に持っていたスマホを投げつけた。一はそれを軽くよける。
『おい、どうした! おい!』
そんな健次の声は当然ながら剛の耳には届かない。
健次の声がするスマホを一瞥し、一は大きめの声で言う。
「そこで聞いてるんだろ? 健次。よく聞いておけよ、大事な友達の断末魔を」
そう言って一は大鎌を剛の首筋に当てた。腰が抜けた剛は立ち上がることができなかった。
「動くなよ」
首筋に当たっている刃先が少しずつ首に入っていく。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
剛は足をばたつかせ必死の抵抗をした。
「ああ、もう。鬱陶しいな」
一はばたついている剛の足を思い切り踏みつける。ボキッ。剛の足は歪な形になる。
「ぐわあああああぁぁぁぁぁぁ!!」
「もう一本いくよ」
ボキッ!
「―っがあっ!!」
『おい、剛! どうした剛!!』
剛は抵抗する術を奪われた。
「じゃあ、続けよう」
その後、しばらく続いた剛の叫び声はだんだんと小さくなっていった。そして最後は何も聞こえなくなった。
剛の家族、健次が駆けつけた頃には、部屋には息を引き取った剛が静かに横たわっていただけだった。
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