私達の最高の卒業式

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二人の答辞に会場は盛大な拍手に包まれる。 あとは退場だ。 「あれ、茜は?」 「さっきまでいたよね。」 「柊もいないぞ。」 「山口君は?」 S組と10組の生徒達が異変に気づき、それに釣られて会場がざわめき始める。 「そういえば、嶋田と月島さん(嶋田が二人だとややこしいので、クラスメートはあやめを月島さんとよんでいる。)はなぜ動かないんだ?」 「みなさん。」司会である教頭の声ではない声で一斉に司会席を見る。 「山口君?」そこには哲也君が。 「僕たちは今日で第一高校を卒業します。同じ道を行く学友もいれば、全く別の道を行く学友もいる。もう会うことはないかもしれない親友たちに、僕達から最後のありがとうを届けます。」 と、同時に幕が下りる。 「お、おい。」 「あれは?」 「キャー、愉快な仲間たちよ。」文化祭で解散し、もう見ることができないと思われた素人最高のバンド「荻窪茜と愉快な仲間達」が、卒業式クライマックスで登場したのだ。 体育館は異様なざわめきから大歓声へと変化していく。 「みんな、卒業おめでとう。学友に恵まれ、支えられ、私はアイドル、歌の道へと進むことができました。みなさんへのお礼を込めて歌います。聞いてください。「卒業。」」 唯ちゃんの穏やかなオルガンから前奏が入る。涙を誘う私の歌詞に、切ないバラードのあやめの作曲。一番を歌いきるころには、至るところで涙をこらえる、堪えられない生徒が続出する。 そういう私も最後の大サビで溢れるものを堪えられなくなり、最後なのに、途切れ途切れな歌詞になってしまった。 全ての歌を歌い、あとは後奏。まず私がステージの前に立ち、マイクを足元に置く。次に陽葵が私の横に立ち、ギターを足元に。あやめがピアノから立ち上がり、陽葵の横で楽譜を足元に。次に裕があやめの横でスティックを足元に。最後に哲也君が私の横に立ち、ノートパソコンを足元においた。 唯ちゃんのオルガンと、ピアノに移動した椿の演奏に合わせて会場に一礼する。 割れんばかりの大歓声に解散コンサートでも出なかった涙を止めることができなかった。
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