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「卒業生退場。」
ピアノとオルガンの伴奏にのりながら卒業生は退場となる。…。はずなのに、1組の生徒は一向に動かない。
「退場です。」教頭の声は卒業生には届かない。みんな涙と笑顔で握手したり、抱きついたりでとても退場する雰囲気ではなくなってしまった。
「みんなありがとう。」私はマイクを通さず、地声で感謝を伝える。あれほどの騒ぎだった会場が一瞬静寂につつまれ、みんなで「ありがとう。」の大合唱に包まれるのであった。
それからは大変だ。アイドルの私に、サッカー選手権優勝のGKとMF。稀代のピアニストに、無敗の剣聖の愉快な仲間達はひっぱりだこ。10時に始まったら卒業式。私達が解放されたのは17時を過ぎている頃であった。
ありがとう。私と再び大親友になってくれたあやめ。
ありがとう。バントに欠かせないギターが見つからなかった時に、クラスが違うのに全面協力してくれた陽葵。
ありがとう。二つも年下なのに、厳しい練習にも耐え、自分達の時間を切り裂いてくれた椿と唯ちゃん。
ありがとう。あんたがいなかったら、今の私はなかったよ。裕。
そして…。「茜ぇー。」
振り向くと、大きな花束を抱えた哲也君が。
「どうしたのよ。それ?」後輩にプレゼントでも?
「茜。今日の君は凄く輝いていた。」
「ち、ちょっと。恥ずかしいじゃない。」
「ふっ、この輝いている茜の隣を歩かせてもらえないか?好きだ。」
抱えきれない花束を私の前に差し出す哲也君。
あんたがいなかったら…。
あんたがいたから…。
今の私があるんだ。私にはあんたが必要なんだよ。
「勿論よ。大好きだよ。哲也君。」
花束を受け取り、彼におもいっきり抱きついた。
「ありがとう。」
完
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