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「少し前に幸多くんのアザを見つけてしまったの。本人はこけたとか言って隠していましたけれど、そんなアザには思えなかった」
それにマリも口を挟む。
「たぶん、勉強する時です。部屋には私も入らせてもらえなかった。勉強できないと怒られるんだって幸多くん言ってましたし、怖がっていましたから……」
三崎はさっき幸多くんの腕に見たアザを思い出す。
「児童相談所に通報しようとは思わなかったのですか?」
マリはうつむいて、「ごめんなさい」とつぶやいた。
「ごめんなさい。私の身勝手です。幸多くんの虐待の通報をしてしまえば、詐欺の方は証拠を消されて追えなくなるのではと……勝手に思ってしまったのです。もっと早く助けてあげられたかもしれないのに……」
雅代がマリの肩を抱いて口を開く。
「だからすぐにでも旅行にと思ったの。旅行に連れ出してしまえば、その間は幸多くんは無事でいられるでしょう? 安全が確保されるまでは家に帰してやらないつもりでいたわ」
このふたりが幸多くんの虐待に気づいていなければ、もっと酷いことになっていたかもしれないと三崎は思う。
けれど……言わなければならない。
「松田雅代さん、里見妃茉里さん、あなた達のしたことは、誘拐です」
雅代はその言葉に静かに頷き、マリは「どうすればよかったんでしょうか……」とつぶく。
それならば警察に相談してくれれば……言いかけて三崎は口をつぐむ。相談してもらっていればうまく解決できただろうか。
安木と九重の逮捕だって、誘拐の口実があって家宅捜索をしてからの副産物である。形式的にしか動けない警察と違って、現実はもっと流動的で複雑だ。
法律で言ってしまえば『誘拐』であるこのふたりの行為だって、本当の意味は『虐待からの保護』であり『被害者の叫び』であった。
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