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ふたり
「ふたりとも、おはよう。今日はね、とってもいい日なのよ」
雅代は居間の棚に飾ってある夫と息子の写真に話しかける。
窓を開けると五月の爽やかな風が部屋に入ってきて、雅代はちょうど一年前のことを思い出した。
幸多くんは、今は日下部の家にはいない。日下部康子は幸彦が逮捕された後すぐ、葵をつれて家を出ていったらしい。
幸多くんは母方の祖父母の家にいて、元気に学校に通っているようである。雅代にも時々、会いに来てくれる。
雅代はあの後、ちょっとだけ警察に叱られたけれど、情状酌量ということで特に罪に問われることはなかった。
妃茉里ちゃんは幸彦の憎悪が激しかったことから、当初は起訴される可能性もあったが、幸多くんへの虐待のこともあり幸彦が訴えを取り下げたため、不起訴処分となった。
幸彦のことだから自分の罪を軽くしてもらうためとかそんな理由かもしれないけれど、妃茉里ちゃんに前科がつかなかったなら雅代はそれでよかったと思う。
妃茉里ちゃんは事件の後、信頼できる仲間たちと一緒に『ひまわり』という会社を立ち上げた。家事代行サービスとベビーシッターを派遣する会社だ。
持病の腰痛が酷い時などに、雅代も利用させてもらっている。
ピンポーン
あ、来た来た。
今日はその家事代行サービスを頼んでいる日だ。チャイムが鳴って雅代は玄関に急ぐ。
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