花笑み

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今日もテレビをつけるとあの話題だ。 いや、テレビをつけなくても人々の口の端にのぼるのはあの話題ばかり。 学校にも行けないし、お店は全部閉まっている。 公園にも遊びに行くのをはばかられる。友達にも会えない。 世界は閉じられてしまった。 だから僕は本を読むようになった。 本屋さんも図書館も閉まっているけれど、僕の家は幸い、読書家の父さんが集めた本があった。 本なんか読むより友達とサッカーをしたり鬼ごっこをする方が楽しいと思っていたけれど、読書も中々悪くない。 冒険モノ、時代小説、ファンタジー、推理小説…。手当り次第に読んだ。 読んでいる間だけは、空想の世界に浸ることが出来て、暗い現実を忘れることが出来た。 こうして、父さんの蔵書の中で僕が読めそうな物語はほとんど読み切った。でも、学校は始まらなかった。 全ては、「フレア」が僕らの街でも流行り始めたからだ。 子供の僕にはよく分からないけれど、それはとても怖い病気で、罹かるととても苦しんで、死んでしまうかもしれないらしい。 そのため、僕らは家から出てはいけないし、もし家から出る時は必ず、「フレア専用防護マスク」をつけなければならなくなった。 この防護マスクが厄介だ。頭からすっぽりと布を被り、目だけ見えるようにして顔全体を覆うので暑いしムシムシするし、おまけに見た目が怖い。お互い目しか見えないから誰なのかがよく分からない。視界も悪い。 このマスクを付けて何度か外出したこともあったけれど、気分は晴れないし、なんだか気持ち悪くて外出する気が無くなった。 (家で本を読んでる方がいいや…) こうして僕は、今日も本の世界に逃げ込むのだ。 いっときでも、フレアの事を忘れるために。
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