花笑み

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「フレア」が世界中に蔓延して、半年が経った。 四年生の夏は最悪だった。 僕らの夏といえば、毎日と言っていいほど海に泳ぎに行き、じーちゃんばーちゃんちに泊まりに行き、花火大会や夏祭りに行き…とイベントがあるはずなのに、全てが無くなった。 休校の遅れを取り戻すためだったから、夏休み自体も短縮された。 僕らは防護マスクの下、あせもを作りながら学校に通った。 なにもかも、「フレア」のせいだ。 夏休みが短いのも、海に行けないのも、お祭りがないのも、こうして暑い中教室に座っているのも全部全部…。 この、やり場のない怒りを計算ドリルのページにぶつけていた時だった。 ガターン!という椅子が倒れる音と、どさり、と何かが崩れるような音がした。 「花森さん!」 「大丈夫?!」 「先生ー、花森がー」 数人の女子が慌てて、あの転校生の花森の元に駆け寄った。気づいた先生も慌てて駆け寄る。 僕も席から立ち上がってそちらを見た。 花森が、床に崩れ落ちていた。 「花森、大丈夫か?貧血かな…。」 木村先生はサッと花森を抱え上げると、 「みんな、保健室連れて行くから、おとなしく自習しとけよ!」 と言って教室を出て行った。 あっという間の出来事で、席が離れていた僕はよく分からなかったが、花森が大変なことは分かった。 転校生の花森は、最初の頃は数人の女子が群れて一緒に話しているようだったが、自然と一人で過ごす事が多くなっていった。 僕らのクラスの人数は奇数だったから、いつも二人組を組む時はあまってしまっていた。 女子も、いじめたりするような事はなかったが、花森自身がみんなの輪に入っていけない、入っていかないタイプのようだった。 何故かよく分からないが、僕はついつい花森の事を見てしまっていた。 スッと伸びた綺麗な姿勢と、腰までのまっすぐな黒髪、か細い手足。国語の音読の時の、小さいくせによく通る綺麗な声。 自分でも何でかよく分からないけれど、気になって仕方ない。 そんな気持ちでいたから、この日、行動に移してしまったのだと思う。
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