花笑み

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それからしばらく、花森は図書室に来ることは無くなった。 (そりゃそうだよな…) 花森は、いじめられているわけではなさそうだが、やはり異質な存在として見られているようだった。 (みんなマスクを外しているのに、一人だけマスクをしているもんな…) とはいえ、僕らより下の子どもたちには、たまにマスクを外せない子どももいる。 素顔を見せることに抵抗感が出てきたのだと、マスコミやらは騒いでいる。 (花森もそうなのかな…) 確かに、僕も防護マスクを外した数日は、なんだか顔がスカスカな感じがして不安だった。でもあっという間に元の生活に戻った気分になれたのだが…。 花森の素顔が見たい。いや、花森の笑顔が見たい。 なぜか僕はそう思ってしまう。 ある時読んだ小説の中に、咲く、と描いてわらう、というルビが振ってあった事があった。 花が咲くような笑顔。すごく素敵な表現だと思った。 あの日、保健室で見た花森の素顔。 あの顔が微笑んだら、声を立てて大きく笑ったら、 きっと花が咲くように可愛いだろうなと思ったのだ。 どうしてこんなにも、花森の事が気になるのかわからないけど、僕は花森の笑顔が見たいと思ってしまう。
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