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「……これはろくでもない……」
「こら、ろくでもない言うな! 平坂くんが傷つく」
「ふっ、ぐうっ……わかってます全部オレが悪いんですううう!
さ、最悪はオレの腕切って納めますから……!」
「いつ時代の刑罰よ……縫合が甘かったの、縫合が。訴えられたら解剖医も巻きこんでやろうぜ」
訴訟沙汰になった時点で信用商売はおしまいだし、もし火葬後に遺体の一部が出てきたら処分に困るどころの話ではないのだが、とにかく今夜の客はあまりいい死に方をしなかったらしい。
飛鳥に視線を送ってみれば、彼は手首を撫でさすりつつ肩を竦めるのだった。
「警察絡みのご遺体でな。大量飲酒の上、自ら左手首を切断しての失血死と来た。首吊りゃよかったのにとも言えねえが、何でわざわざ痛い方法を選ぶかねえ……」
深い溜息。ひそめられた眉には、凄絶な最期を遂げた者への哀憐が滲んでいる。
自死という結末が遺族にもたらす悲嘆はこの比ではない。
死が日常化した葬儀屋には経験できぬような感情に潰されかけている彼らに対して、これ以上の衝撃を与えることは許されない。
一刻も早く、行方不明の手首を持ち主と引きあわせなければならなかった。
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