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冬場にもかかわらず冷房のきいた部屋の奥、男性の遺体は横たえられていた。
傍らに膝をつき合掌してから、掛け布団を捲りあげる。閉じこめられていたドライアイスの冷気と微かな死臭が湯気のように立ちのぼった。
警察絡みで解剖に回されたからには死後数日経過しているのだろうが、寒い季節が幸いしてか、棺に納めず安置できるくらいには綺麗な状態を保った遺体である。平坂の処置技術が優れているおかげもあるのだろう。
ただし話に聞いたとおり、浴衣の左袖からは覗くべきものが覗いていなかった。
敷き布団の下に指をもぐらせても畳の目を数えられるだけ。掛け布団を振っても切れた繊維が舞うばかり。
調度品の少ない安置室に死角があるわけでもなく、早くも手の打ちようがなくなってしまった。
部屋の四隅を眺め渡し、枕机の位置を意味もなくずらしつづけた末、白い面布を外してみることにする。
「お……」
激痛とともに亡くなったはずの男性は、意外にもすべての苦しみから解放されたように穏やかな表情を浮かべていた。
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