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首を横に振って返すと、彼は苦笑に引き攣る頬を掻いて、遺体の足元に座りこむ。
「こっちも全然だめだ。平坂くんが一旦全部の車を外に出してるが、望み薄だわな……あー、こうなったら花屋のウイローに頼むっきゃねえか」
「コーギーですよ、ウイロー……警察犬の真似事ができるとでも」
「無理は承知だが、猫の手ならぬ犬の手も借りたい状況だろ。
あ、じゃなきゃ晴澄、お前さんとこの──」
その名を出すな、と反射的に反発しそうになった。
だが空気が本能に訴えかける。もう遅い、と嘲弄する。
恐ろしいことに気配でわかってしまうのだ。
次の瞬間、扉を“開く”のは平坂ではない。同じ人間ですらない。
生者とも死者とも呼べぬ、人心を手玉に取って飢えを満たす怪物だ。
ヒールブーツの軽やかな足音。
白金の髪に散らされる光が、これ見よがしに視界へ躍りだす。
「──ヴェスナ」
「通夜みたいな顔をするな、ハル。取って食ってやりたくなる」
同居人兼不法侵入者は、春の花畑でも背負っているかのように華々しい笑顔で入口の柱にもたれかかってみせた。
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