1話 手首はどこへ消えた?

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「あっ!? え、うそ、ちょうど呼ぼうとしてたんだぜヴェスナくん! なになに、晴澄の帰りが遅いから心配して来てくれたとか?」  厄介だ。舌打ちしたい衝動を必死に抑える。  こともあろうに、飛鳥はこの男と晴澄の関係を誤解していた──同居中の、恋人同士なのだと。  それゆえどこからどう見ても胡散くさい彼に心を許してしまい、抱くべきでない信頼を寄せてさえいる。この信頼が芽吹いた経緯については一概に誤解とも言いきれないのが、また晴澄を不愉快な気分にさせていた。  ヴェスナが舞台に上がった途端、あらゆる奇妙な出来事に片がつくのは事実なのだ。  そう、まるで道が“開く”かのように。  一方で、変異は変異を呼ぶ。そもそも彼が現れたせいで怪事件が頻発するようになった節もあり、晴澄には彼を信用する気が更々なかった。  同じ屋根の下で暮らし、幾夜となく体を重ねていても、それとこれとは別問題なのである。 「何の用だ。帰れ」 「答える前に帰れとか言うのひどくないか、アスカ」 「晴澄が理不尽なこと言うの貴重だから正直おもしれえ……ってのは置いといて。照れ隠しも行きすぎると愛想尽かされるぜ、晴澄?」 「……」  飛鳥の前でこの男の異常性を仔細に並べたてるわけにはいかず、恋人という前提を下手に否定できないのが非常にやりづらい。
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