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「盗んでどうするよ、んなもん」
「ご利益を期待したり……何らかの儀式に入用だったり……?」
「うはは馬鹿な……って笑い飛ばしたいとこだが、色んな形があるのが信仰だもんな……どう思う、ヴェスナくん」
「発想は悪くない。続けろ?」
話を促すように掌を広げる仕種が無性に腹立たしいが、ここは堪えておくとしよう。
「故人がどんな方だったか、ご葬家から聞きましたか?」
「あー、全然。自死のご葬儀なのもあって、そういう雰囲気じゃなくてなあ。詳しい打ち合わせは明日だし、今は死因以外だと俗名と享年と宗派しか……そっか。名前ググりゃいいのかね」
お迎えに立ちあっていない晴澄は彼の氏名さえ知らずにいたことに気付く。
スーツのポケットからスマホを取り出す飛鳥の後ろに移動し、画面を覗きこんだ。
葬祭業に携わる者の礼儀として、普段は興味本位で個人情報を漁るような真似はしないのだが、今回は緊急事態だ。
「すずとみ、もりなり……っと、ヒットしたぜ」
やはり著名人だったらしく、検索結果のトップに彼のプロフィールが表示された。
鈴富杜成。
1977年生まれ、作曲家、ピアニスト。
「『左弾きのメサイア』の異名で知られ……?」
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