1話 手首はどこへ消えた?

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 ふたり揃って見えざる左手に目を遣る。  救済者(メサイア)とはまた仰々しい。  しかし故・鈴富氏は、そう呼ばれるほどの偉業を成し遂げた人物だということだ。  だとしても、わからないことがひとつあった。 「左弾きってなに? ピアノって両手で弾くもんじゃねえの?」 「……左手だけで技術を競うコンクールとかがあるのでは……?」 「あるかねえ……」  顎に指を添え一頻り唸ってから、飛鳥はまあいいかと膝を打つ。 「晴澄の言ったとおりだわ。故人の左手には大変重要な意味がある。つまり――」  固く握りしめられた拳。  その瞳は近年稀に見る真剣さを湛えていた。 「見つけねえと洒落にならんレベルでやばい」 「はい」
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