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本当に盗まれたのだとしたら、いつ誰によって持ち去られたのかを明らかにし、現在の在り処を突きとめなければならない。視野を広げる必要こそあれど、ゴールは変わらぬままである。
まずは平坂を呼んで搬送時の状況をきちんと整理しておくべきか。
あるいは、と首を擡げれば、ヴェスナの双眸がこちらに向けられていた。
嫌な目だ。
果てなき宇宙を思わせる紫紺の奥で、金色の星が好奇を乗せて廻っている。
「よかろう。理解が追いついたところで、おれからの救済だ」
彼は柱から背中を剥がし、開きっぱなしだった扉の外を指し示した。
──先程とは異なる、遠慮がちなヒールの音が、磨きあげられた廊下をカツンと鳴らす。
現れたのは黒いコート姿の女性だった。
年は30代半ばだろうか、左手の薬指には銀の指輪がはめられている。
「紹介する。こちら、極寒の夜更けに葬儀会社の周りを徘徊していた不審な女だ」
「言い方……」
憔悴した蒼白い細面に見覚えはない。
ただそれは数分前まで故人の名すら把握していなかった晴澄からすればであり、飛鳥からすれば、そうではなかったようだ。
「鈴富さま……!?」
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