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塞ごうとした唇が紡ぐのは、誘惑ではなく牽制だ。
唯一の長所と呼べる天使の顔立ちを、いつもどおりの邪悪な微笑が歪めていく。
「今夜はお預けだ」
「は?」
ふだんは頼みもしないのに寝込みを襲ってくるくせして、随分な態度である。
否、晴澄とて傲岸不遜の権化たるこの人でなしに斟酌など微塵も期待していないのだが、日常的なセックスを──足を“開く”行為を拒まれるとは思ってもみなかった。
「よその男と遊んででもきたか」
「お、何だその顔は? いっちょまえに嫉妬とはかわいいやつめ」
「ベッドに他人の脂をつけたくないだけだ。というか否定しないのか」
「ああいや、する、するとも。知ってのとおり今のおれはおまえしか眼中にない。有象無象とまぐわう気は更々ないさ」
愛の告白じみた発言とともに頬を撫でられてもべつに嬉しくはない。まったく。これっぽっちも。むしろ寒気すら覚える。
可能なかぎり不愉快さをあらわにした晴澄の眉間をつつきながら、彼はいっそう楽しげに喉を鳴らしてみせた。
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