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◆ ◆ ◆
「遅くなりまし──」
「晴澄さん足元! 気をつけて! くださいいいっ!」
緊急事態とやらを承知の上でも、関係者入口を跨ぐや否や金切り声で絶叫されるのは心臓によろしくなかった。
自宅から錠野葬祭まではバイクで5分の距離だ。
とはいえ酒を飲んでしまったので運転はできず、自分の足でここへ駆けつけたわけだが、その間に状況の改善は見られなかったらしい。
いつになく空気が張りつめている。
深夜の会社には宿直のふたりしか残っていないはずなのに、そこら中の明かりが煌々と灯っていて、夜闇とのギャップに目がチカチカした。
「あー、晴澄! 呼びつけちまってごめんな、ほんとに……。
お前さん休み久しぶりだったろ? ゆっくりさせてやりたかったんだが」
比較的落ち着いた様子の先輩──飛鳥が気遣わしげな笑みを浮かべつつ、小柄な影をバックヤードに落とした。
車のキーを指先でもてあそんでいる。地下駐車場から戻ってきたようだ。
「ご遺体の搬送があったんですか?」
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