1話 手首はどこへ消えた?

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「足元に気をつけて……絶対に、絶対に踏んづけないでくださいね……!」 「あとこれ、手袋と布巾。見つけても素手でプラプラ持ち運ぶわけにゃいかねえしな」 「消毒液もふすまの奥にありますからっ!」 「……消毒液?」  嫌な予感が直視したくない現実を象りはじめる。  甘かった。  あの男のアンテナに引っかかった以上、失せ物というのが尋常な品であるはずがなかったのだ。  葬儀社が故人の私物を保管することはない。  錠野葬祭(われわれ)が責任を負うのは、彼らが遺していった冷たい体のみである。 「すみません。故人の何を、失くしたんですか」 「──手首」  頭痛がした。
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