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断りづらくなったなと苦々しい気持ちになりながら、頭の隅ではユイがいてくれたらなと考えていた。ユイだったら、私がどうしたいのか汲み取って助け舟を出してくれたはずだ。きっとヒナや坂口さんが想像するより私の胸中は複雑だ。その理由だって、ユイなら理解してくれたのに。そんなことを思ってもユイは今、教室にすらいないから、どうしようもない。
「……私が断ったらどうするの?」
「そうしたら、また、考えるけど……。でも、私達の学年って陰キャオタク集団でしょ」
「そんなことないと思うけど……。ねえ?」
「俺? 俺、美術部ってマミと坂口くらいしか知らないから分かんないけど」
「そこは嘘でも、そんなことないって言って!!」
「え、嘘なのかよ?」
「言葉の綾だよ!!」
ヒナに訊いたのが間違いだった。馬鹿正直に受け取ってどうするのよ。苛立ちや呆れを紛らわそうと、机の上に並べていた二枚の用紙をクリアファイルに戻す。ふと、ヒナと坂口さんが選んだ方を見て気がついた。
「あ、これ、明日提出の課題じゃん。やば」
ろくに確認もしなかったから仕方がない。ああ、でも古典だ。古典の先生、煩いんだよなとげんなりしながらも、私は坂口さんの言う"集団"から明らかに外れている人を思い浮かべていた。
ーー菊地さんだ。坂口さんの様子から菊地さんを頼る考えはなさそうだけど、苦肉の策になる可能性もあるかもしれない。それでも高確率で菊地さんは断るはずだ。でも、万が一、億が一、部長を引き受けたら、私はきっと部にいづらくなるし、色々やりづらくなる。……そうなるくらいなら。
「……分かった。私が部長やるよ」
「本当? お願いしておいてあれだけど大丈夫?」
「うん。だって、私の才能が溢れすぎてたせいで選ばれたなら仕方ないよね」
「ウザっ」
了承した理由なんか打算でしかない。でも、だからといって私に部長が務まるかといえば話は別だ。本当は不安でいっぱいだったけど、わざと自信過剰なことを言って誤魔化した。ヒナの「ウザっ」が瞬発力抜群だったおかげで、嫌な空気になることもなくて。密かに胸を撫で下ろした。
「……マミちゃんと朝比奈くんって仲良いんだね」
「…………」
「ご、ごめん、何か変なこと言った?」
「ううん、そうじゃないけど」
坂口さんはクスッと笑みを零していたけど、私が思い切り眉を寄せたものだから、途端に青ざめている。
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