(5)揺れる

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「修学旅行……」  十二月頭にある修学旅行だった。校内は文化祭ムード一色だけど、この時期の二年生は忙しい。  「マミちゃんは由井くんと一緒でしょ?」 「さあ……。どうだろ」  当然のことのように言われ、返答に困る。少し前ならほとんど反射で頷いていたのに。  昼休み終了まで残り十分を切っている。続々と教室に戻ってくる人達を気にしているのか、坂口さんは声を潜めた。 「……茉莉花ちゃんとは文化祭まで付き合うって話だったよね?」 「そう、みたいだけど……。私が余計なこと言ってユイ、怒らせたの。だから、詳しいことはよく分かんなくて」  私の方が先に地雷を踏んだのだと今なら分かるけど、ユイの言葉を思い出すだけでまた泣きそうになる。記憶は色褪せることはなく、同じ場面を繰り返してはその度に傷を増やしていた。   「……訊けば良かった。どうしたの、何かあったのって」  実際は、一番言われたくないことをユイから言われて、傷ついて、(ひる)んだ。翌日、二人で話す機会は訪れたけど、冷静になんかなれなかった。 「茉莉花ちゃん、今、すごく嬉しそうなの。文化祭までって条件つけたこと、忘れてるのかなって思うくらい」 「…………」 「仮にだけど、期間延長しない?とか茉莉花ちゃんが言い出したらどうするの? それで良いの?」 「良くない、けど……。でも、ユイがそれで良いって言ったらどうしようもないじゃん」  今の状況にも全く納得いっていない。でも、ユイがどうするかはユイの自由だ。「ユイがそうしたいなら止めないけど」とか嫌味を言ったこともあったけど、私がどうこう言う筋合いはないとちゃんと知っている。 「……余計なお世話なのは分かってるし、私が言えたことでもないんだけど、マミちゃん、由井くんとちゃんと話した方が良いと思うよ」 「なんでそこまで……」  一応、私と坂口さんは美術部という繋がりがあるけれど、親しいかと言われれば違う。この前、初めてまともに会話した(それも、謝罪が主だったから、まともかと言われればまた少し違うのかもしれない)だから、どうしてそこまで親身になってくれるのか分からなかった。必死に訴えてくる姿は痛々しささえ感じるほどだ。 「私と優奈みたいになってほしくないから」  弱々しく笑みを浮かべたその顔は、とても寂しそうに見えた。
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