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「修学旅行……」
十二月頭にある修学旅行だった。校内は文化祭ムード一色だけど、この時期の二年生は忙しい。
「マミちゃんは由井くんと一緒でしょ?」
「さあ……。どうだろ」
当然のことのように言われ、返答に困る。少し前ならほとんど反射で頷いていたのに。
昼休み終了まで残り十分を切っている。続々と教室に戻ってくる人達を気にしているのか、坂口さんは声を潜めた。
「……茉莉花ちゃんとは文化祭まで付き合うって話だったよね?」
「そう、みたいだけど……。私が余計なこと言ってユイ、怒らせたの。だから、詳しいことはよく分かんなくて」
私の方が先に地雷を踏んだのだと今なら分かるけど、ユイの言葉を思い出すだけでまた泣きそうになる。記憶は色褪せることはなく、同じ場面を繰り返してはその度に傷を増やしていた。
「……訊けば良かった。どうしたの、何かあったのって」
実際は、一番言われたくないことをユイから言われて、傷ついて、怯んだ。翌日、二人で話す機会は訪れたけど、冷静になんかなれなかった。
「茉莉花ちゃん、今、すごく嬉しそうなの。文化祭までって条件つけたこと、忘れてるのかなって思うくらい」
「…………」
「仮にだけど、期間延長しない?とか茉莉花ちゃんが言い出したらどうするの? それで良いの?」
「良くない、けど……。でも、ユイがそれで良いって言ったらどうしようもないじゃん」
今の状況にも全く納得いっていない。でも、ユイがどうするかはユイの自由だ。「ユイがそうしたいなら止めないけど」とか嫌味を言ったこともあったけど、私がどうこう言う筋合いはないとちゃんと知っている。
「……余計なお世話なのは分かってるし、私が言えたことでもないんだけど、マミちゃん、由井くんとちゃんと話した方が良いと思うよ」
「なんでそこまで……」
一応、私と坂口さんは美術部という繋がりがあるけれど、親しいかと言われれば違う。この前、初めてまともに会話した(それも、謝罪が主だったから、まともかと言われればまた少し違うのかもしれない)だから、どうしてそこまで親身になってくれるのか分からなかった。必死に訴えてくる姿は痛々しささえ感じるほどだ。
「私と優奈みたいになってほしくないから」
弱々しく笑みを浮かべたその顔は、とても寂しそうに見えた。
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