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最後に「部長、引き受けてくれてありがとう」と静かにお礼を言うと、坂口さんは去っていった。その後ろ姿を眺め、ヒナが着席したのを見計らってから口を開いた。
「……本当はさっさと謝ろうと思ってたの。大嫌いって言ったのは、やっぱりないなって思ったし。声かけてくるなって言ったのも逆ギレして言っただけだし」
「余計悪化したってそういう……」
「……でも。でも、ユイの気持ち知って、どうしたら良いのか分かんなくなった」
ユイが私のことを好き……らしい、ということが頭から離れなくて。ユイと仲違いしてから、いつも、いつも、いつも後悔してるのに、そこから一歩も動けないでいた。
板書されたままの黒板や風で揺れるカーテン、ゴミを捨てに来る男子、私達の側を通る女子ーー視界に入る景色全てが鬱陶しく感じて、机に突っ伏した。
「……正直、まだ疑ってる。だって本人から何も聞いてないし」
「…………」
「だいたい、私のどこを好きになるのよ」
「……なんか意外だな。そういう風に思うのか」
「確かに顔は可愛い方だけど」
「…………」
「なんか言ってよ。自意識過剰みたいじゃん。アオ様の方がずっと美人だとか、遥香さんの方が百倍可愛いとかあるでしょ」
「そりゃそうだけど」
「うわ、傷つく。最低」
「どっちだよ。面倒くさいな」
突っ伏して正解だった。軽口は忘れずに叩くけど、ヒナの前でどんな顔をしていれば良いのか分からない。
「それに、なんで恋愛的に?好きだって思うの? 友達で充分じゃない?」
「それは、……あれだろ」
意味深に言葉を濁している雰囲気を感じ取って、顔を上げれば、ヒナが手招きをしていた。耳を貸してほしいという仕草だ。何勿体ぶっているのよと不審に思いながらも、ヒナに近寄る。ーーだけど。
「最低!! 最ッ低!! なんてこと言うのよ!!」
「うわ、馬鹿!!」
至近距離のまま叫んでいた。「耳が死ぬ…!」と両耳を押さえたヒナも私に負けないくらい煩くて。すぐに椅子ごと下がると、背もたれが後ろの机にぶつかった。
「私は真面目に悩んでるのに……!」
「俺だって大真面目だわ。つーか、なに。そんな潔癖なわけ?」
「違うけど!! けど、リアルに持ち出されるとなんかすっごく嫌!!」
確かにふざけてるとかそういう感じではないけど、傷心の乙女に対してあんまりだ。ついでに変な想像が働きそうでダメだ。
「……じゃあ。じゃあ、ヒナが遥香さんのこと好きなのも、そういうことなの?」
恨みを込めながらヒナを見つめる。別に返事なんかどうだって良かった。ただの意趣返しのつもりだった。
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