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私の質問に目を丸くしたヒナだったけど、次の瞬間、両手を机に叩きつけながら立ち上がった。
「遥香さんはそんなあれじゃない!!」
「同じじゃん!!」
「違いますー!! 確かに遥香さんが泊まってく日とかは、なんか色々、なんか色々、考える、けど!! でも、遥香さんはもっと、なんというか……高尚で神聖な存在なんだよ!!」
同じように両手をついて立ち上がった私に、ヒナは尋ねたことを後悔するくらいの熱量で捲し立ててくる。
「朝比奈ー、間宮相手に何アヤシイ話してんだよ」
「だっから!! 違うって!!」
後ろから飛んできた声は、ほぼ対角線上の席にいる高野くんのものだ。そりゃ、こんなに大声でやり合っていれば会話の内容なんて聞きたくなくても聞こえる。
「……朝比奈が、超エロ話振ってきて辛いから、後はそっちで引き取ってよ」
私の発言に教室がざわついた。「朝比奈からそういう系の話聞いたことないよな」「基本、遥香さんの話しかしないからな」「速水が気になるって!」などと皆の興味を惹いたみたいだ。顔を顰めているような人達も視界に入って申し訳なさも覚えたけど、大袈裟に騒ぎ立てて今のこの状況が有耶無耶になれば良いと思った。
「マミ、おい、ふざけんな!! エロいことなんか一つも言ってないだろ!?」
「言いましたー。私ははっきり聞きましたー。なんならここで発表しようか?」
「言ってみればいい、だ、ろ……」
「なんで自信なくなってきてるのよ」
ふと視線を感じてそちらを向けば、ドアの近くに小泉さんがいた。私達を見て、クスクスと笑っている。隣にはユイもいて、こちらを見ていたけど、そこに笑顔はなかった。
久しぶりに目が合った。でも、その目に浮かぶのが何色か分からない。私の前ではよく笑うけど、元々ユイは表情豊かな方ではないはずだ。付き合いの短いヒナの方がよっぽど分かりやすいと思う。喜怒哀楽を見極めようとしていると小泉さんがユイに何か話しかけた。でも、この喧騒の中では小柄な小泉さんの声はユイには届かないみたいだ。聞き取るためにユイが屈み込むと、小泉さんは何かを囁いている……ように見えた。
高野くんを含めた男子数人に雑な絡まれ方をし始めて、ヒナは迷惑そうにしている。でも、私は最早それどころではなくなっていた。
「……馬鹿みたい」
ユイと小泉さんーー案外、お似合いかもしれないな、と。そう思ってしまったことが、なんだか悔しかった。
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