(6)文化祭一日目

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(6)文化祭一日目

「……つまんない。帰りたい」  私達の通っている高校の文化祭は、二日間開催される。今日はその一日目だ。学校全体の明るく華やかな雰囲気とは裏腹に、私の気持ちは一向に晴れなかった。 「それ、俺にもアオ様にも失礼だろ。俺達、結構忙しいんだよ。本当は」 「別に朝比奈と二人でもつまんないから良いわよ」 「アオ様ー?」  二年一組前の廊下でヒナとアオ様のやり取りを聞いていると、ちょっと前までの自分とユイを思い出した。それがまた虚しい。アオ様はどこまで本気で言っているのか分からないけど、ヒナの声が違う。これは、本気で怒ってないやつだ。  本当だったら、文化祭はユイと回っていたはずなのに。もうずっと、口をきいていない。 「ユイは?」 「……分かんない」  教室からユイが出ていったのは見ていたけど、行き先なんか知るはずもない。小泉さんと一緒の可能性が高いと思えば、どこに行ったのか考えるのも嫌だった。 「朝比奈、ちょっと良い?」  ヒナに声をかけてきたのは見慣れない女子数人だった。聞けば、第一体育館の機材トラブルの話で。その場に居合わせたのが機械音痴な先生だったらしく、最終的に「演劇部が詳しいから捕まえてきなさい」と匙を投げられたらしい。それで良いのかと思ったけど、私は赤の他人なので黙っていた。 「分かった。行くわ。じゃあ、そういうことだから。アオ様は十二時に部室集合な」 「朝比奈が演劇部で良かった」「他に当てがなかったから、演劇部というか朝比奈探してた」などと女子達に言われながら、ヒナは体育館に向かっていった(余談だけど、後で「知り合い?」とヒナに訊いたら「いや、全然。初対面」と何でもないことみたいに言われ驚いてしまった) 「演劇部の公演、楽しみだな。見に行くね」 「朝比奈も私も出ないわよ?」 「うん、それでも。裏方だって、頑張ってたんでしょ? 地区大会突破したって聞いたし」  私がウジウジしている間に、演劇部は県大会への出場が決まったらしい。それだけの時間が過ぎているのに、私はずっと立ち止まったままだ。 「午前は空いてるってことだよね? じゃ、せっかくだから何か見に行こ?」 「……由井は?」 「いないものは仕方ないし。帰りたいとは言ったけど、アオ様と回りたいのも本当なんだ」 「別に良いけど……」  にこ、と笑顔を作れば、アオ様は頷いてくれた。
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