(6)文化祭一日目

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「楽しかったぁ!!」  あれから、私とアオ様は三年生のクラスのお化け屋敷に入った。そのお化け屋敷は、家出をした子どもが十年ぶりに実家の洋館に帰ってくると、既に廃墟になっていたという設定で。この子どもーー子息や令嬢にあたる役がお客さんということだった。  私達はメイドの格好をした受付担当者(特殊メイクも完璧だ)に「お帰りなさいませ、お嬢様」と挨拶され、おもちゃのランプを受け取って中に通された。暗くてよく分からなかったけど、色々工夫を凝らしたのだと思う。結構歩いたけどな……と首を傾げるほど普段の教室がとても広く感じた。  今も中から悲鳴が聞こえてくる。その声に引き寄せられたのかお化け屋敷の前には人が集まってきていた。宣伝効果あるよなと冷静に考えている私も、ついさっきまで「キャア!!」だとか「わあっ!!」だとか叫んでいた。アオ様も声こそ上げなかったけど、硬直した瞬間があったから驚いていたのだと思う。 「私、アオ様だと思って話しかけたらメイドであれ、一番ビックリした」 「それは普通に間宮の勘違いでしょ……」 「てか、メイドの他に誰かいた?」 「いなかったと思うけど」 「だよねえ……」  何故かお化け役は男女問わず全員メイドだった。宣伝用のポスターでは、たまに出没するメイド以外のお化けに会えたらラッキーかも!?と謳われていたけど、私達は出会わなかったみたいだ。 「そういえば、アオ様のクラスは何やってるの?」 「視聴覚室でカラオケ。確か……私達のクラスより高い点出したら景品が貰える、だったはず」 「……なるほど」  アオ様のクラスも比較的、準備が簡単なものを選んだのかもしれない。しっかり準備すれば当日はそこまで人数を割かなくて済みそうだ。「知らないわよ」とか言わないあたり、果穂ちゃんや志織ちゃん達と上手くやっているのだと思う。 「じゃあ、後で行ってみようよ。私、絵も得意だけど歌も上手いよ?」 「そうなの?」 「うん。ユイとよくカラオケに行って……た、けど一人でも全然行くしむしろそっちのが多いかも」  無意識って怖い。口に出してから気づいて、慌てて軌道修正を図ったけど我ながら無理がある。もう、笑顔を作る気にもなれなかった。 「……騒いだらお腹空いてきた。隣、何やってるかな」 「メニューはここ数十年で流行ったものだけ……のカフェ」 「何それ、ちょっと興味ある」  アオ様が手に持っている文化祭のパンフレットを覗き込めば、確かにそんなことが説明されていた。 「マミちゃん?」  ティラミスって流行りものだったのかとイラストを見て感心していると、二つの声に同時に呼ばれた。 「真咲ちゃん! 光稀ちゃん!」  振り返ると、セーラー服姿の真咲ちゃんと光稀ちゃんがいた。
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