(6)文化祭一日目

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 正門を潜って、ずっと真っ直ぐ歩きコンクリートの階段を上った先にあるのが昇降口ーーなのは二年生だけだ。一年生と三年生の昇降口はもっと正門に近いところにある。職員玄関だってその周辺だ。だから、入賞した美術作品や書道作品は、人通りの一番多い一階の廊下に主に展示されている。  職員玄関の近くに飾られている縦910mm×横1167mmの私の絵は去年、全国規模のコンクールで入賞した。といっても、ギリギリ引っかかったくらいのものだ。さすがに全国はレベルが高い。 「この絵……」 「もしかして見たことある?」 「間宮の絵だとは知らなかったけど」 「まあ、興味もなければ、気にも留めないからね。飾ってるなーくらいで」 「…………」  アオ様は無言で絵を見つめている。多分、私と絵が結びつかないんだと思う。以前、ヒナが私を見て「いやいやいや」と失礼な反応をしたことがあった。何だと思えば、ここを通った際、この絵を見たのだと言っていた。 「私が描いたって信憑性ないでしょ。ヒナも最初、ビックリしてたし」 「これ、実際の場所があるの?」 「この近くに神社あるじゃん。こぢんまりした感じの」 「……夏休みの、」 「あ、そう。そこ。一年の時に、……行ってみたことがあるんだけど、頑張って階段登って行ったのに、何にもなくて。でも、花は結構咲いてて綺麗だったんだ」  辛うじて小さな賽銭箱と鈴があるくらいで、それも古ぼけていたから、ご利益なさそうだなと身も蓋もない感想を抱いた。どちらかといえば、あちこちに咲いていた花の方が印象的だった。 「……初めて見た時に、ここまで繊細な絵を描く人間が校内にいるのかって思った」  アオ様の声は特別大きなものではなかった。それでも、行き交う人が多くガヤガヤしたなかで、何故かその言葉はスッと耳に入ってきた。思わずアオ様を凝視する。 「……なんか、絵は褒めてもらうこと多いけど、今のが一番嬉しいかも」 「大袈裟でしょ。私、絵なんか詳しくないわよ。アクリルって表記あるけど、アクリルって何よって思ってるし」 「でも、アオ様お世辞とか言わないでしょ」 「……言わないというより、思ってることしか言えないのよ」  アオ様は溜息混じりだったけど、嬉しさは増すばかりだ。アオ様の歯に衣着せぬ物言いはプラスに働けば効果覿面なのだ。でも、同時に感じたのは、やっぱり新作は見せられないな……というほんの少しの後ろめたさだった。  決して適当に描いたわけじゃなかったと言い訳じみたことを思っていると、アオ様がブレザーのポケットに手を入れた。動作自体はゆったりとしていたけど、どこか唐突な気がしてなんとなく視線を向ける。すると、そこから出てきたのは白い携帯電話ーーガラケーだった。
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