(6)文化祭一日目

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「え、」  ーーなんで? 驚愕している私をよそにアオ様はガラケーを耳に当てた。どうやら電話がかかってきたみたいだ。 「今? 一階にいるけど。十二時に部室。その後? その後は……」  内容から察するに相手は多分、果穂ちゃんだ。短いやり取りをした後「そう、分かったわ」と言ってアオ様は電話を切った。 「アオ様、ガラケー持ってたんだ」 「電話くらいにしか使ってない。ほとんど家族とやり取りするだけだし」 「これも無理矢理持たされたのよ」と言うアオ様はふて腐れているように見えた。  実をいうと、アオ様の自宅の電話番号は知っていた。終業式の日に「ヒナと仲直りする作戦思いついたら連絡するよ」と言って、聞き出したからだ。自宅に電話をかけるというのは、なかなかハードルが高い。結局、その"作戦"(というほどでもなかったけど)の打ち合わせのために、一回電話したきりだった。  ガラケーを持っていたのなら、教えてくれれば良かったのに。一番最初に尋ねた時はスマホ前提で話を進めた。だから、持っていないと言われた。嘘はつかれてない。ーーだけど。 「クラス内の連絡とか伝える時に迷惑だって言われたのよ。納得したから果穂と志織には教えた。それだけ」  不満に思う気持ちが顔に出ていたのだと思う。渋々という風だったけどアオ様は説明してくれた。  確かにそうだ。私だってメッセージアプリにはクラスのグループや部活のグループが存在している。果穂ちゃん達の言い分におかしなところなんてない。真っ当だ。でも、私はもう一つ気になっていたことがある。 「もう一つ訊いても良い?」 「何よ」 「……なんで、果穂ちゃんと志織ちゃんは名前で呼んでるの?」 「…………」 「私の方が仲良くなったの早かったじゃん? でもずっと間宮だし……って、ごめん、本当ごめん。どうでも良いこと訊いた」  アオ様が歩み寄ってきてくれているのは日々感じている。小泉さんとトラブル紛いのことが起きた時、動揺していた私に寄り添ってくれたことも、トイレで速水さん達から庇ってくれたことも、絵を褒めてくれたことも嬉しかった。文化祭を一緒に回るなんて「嫌」「信用できない」と友達になることを拒否された頃からは考えられないことだ。だから、呼び方なんて気にしなくても良いのに。これは鬱陶しいなと自分でも思った。
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