(6)文化祭一日目

9/21
前へ
/187ページ
次へ
「そういえば、ヒナはアオ様がガラケー持ってるって知ってるの?」 「知らないと思うけど。言ってないし」 「じゃあヒナの番号も教えてあげようか? ……ううん、やっぱりやめとく。アオ様が訊いてみたら?」  提案しておいてなんだけど、途中で気が変わった。今ここでヒナの電話番号をアオ様に教えたとしても、ヒナは文句言わないと思う。でも、アオ様が直接ヒナに訊いた方が良いと思ったのだ。ヒナの驚く顔が目に浮かぶなとワクワクしている私とは反対に、アオ様は難題にぶち当たったみたいに眉間に皺を寄せている。   「……なんて訊くのよ」 「えー……『この私から直直に訊いてあげるわ。身に余る光栄でしょ?』とか」 「私のことなんだと思って、るの、よ……」 「アオ様?」  不自然に言葉が切れたと思えば、アオ様は黙り込んでしまった。適当なこと(半分くらいは本気だけど)言ってる場合じゃなかったかなと反省していると、アオ様は急に腑に落ちたような顔をした。 「……ああ、由井か」 「ユイ?」 「同じようなこと言われたことがあるのよ。似たもの同士なのね」 「……似ては、ないんじゃないかな」   どうして千暁ちゃんや真咲ちゃん達とは似てなくて、私と似てるなんて結論になるのか。私とユイは赤の他人なのに。気を紛らわそうとポニーテールに手を伸ばしたけど、空を切るだけで。そうだ、髪切ったんだったと今更実感してしまった。バツの悪さを誤魔化そうとアオ様の反応を待たずに言葉を続ける。 「私の繊細さって絵に全振りしたみたいなとこあって、他は色々雑だし。向こうはわりときっちりしてる方だし。趣味嗜好も結構バラバラだしね」  それでも、ユイと一緒にいると楽しかった。きっかけが何であっても、その後ずっと一緒にいるのは居心地が良かったからだ。……さっき、口には出さなかったけど、あの神社にだって入学して間もない頃に、この辺を散策する目的でユイと行ったのだ。『え、嘘、何にもない!!』と衝撃を受けた後、二人で笑ってしまった。あの日の声が蘇ってくるようだった。 「……私のことはともかく。別に何でも良いと思うよ。だって、今、ヒナとアオ様仲良いじゃん? どんな風に訊いても教えてくれるよ」  記憶が溢れ出して鮮明になる前に、強引に話を本題へ戻した。私の言葉に納得していないというよりは、ただ不安なんだと思う。アオ様は渋いを通り越して凶悪な顔をしていた。
/187ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加