(6)文化祭一日目

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「もしかして、ヒナの……朝比奈くんのお兄さんですか?」 「初めまして」とヒナのお兄さんは挨拶してくれた。ーーイケメンだ。ものすごく、イケメンだ。周りのおば様方もうちの高校の女子達も、それ以外の女の子達もお兄さんを見て頬を染めている。 「あ、あの! 結婚、するんですよね? おめでとうございます」  美形すぎるというのも考えものだ。ただ、そこに立っているだけなのに緊張して仕方がない。勝手に上がっていく心拍数をなんとかしようと苦し紛れにヒナから聞いていた結婚の話を持ち出す。その瞬間、周囲の空気が残念そうなものへと変わった。 「次朗か……」  お兄さんは呆れていたけれど「ありがとう」と笑ってくれた。ヒナと似てるかどうかといえば、あまり似てないなと思った。でも、笑った顔は少し、ほんのちょっとだけ似ているかもしれない。遥香さんも幸せそうだ。それがなんだかとてもお似合いに見えて、本当にヒナの入る隙なんてないんだなと思った。 「……マミちゃん?」 「……あっ、はい。間宮だからマミって呼ばれてます」  ーービックリした。ただ、お兄さんに名前を呼ばれただけなのに心臓、どこか行ったかと思った。良かった、そんなわけなかったとホッとしている私の隣で、遥香さんは「そうなんだ」と意外そうにしている。どうやら下の名前だと思われていたみたいだ。何を言われるんだろうと、どぎまぎしながらお兄さんの言葉を待つ。 「マミちゃんは、次朗の彼女か何かかな?」 「え、違います……!! 全ッ然、そんなのじゃないです……!!」  またそれか!!と思わなくもなかったけど、ありえないとか、無理すぎるとかヒナのお兄さんに言うわけにもいかない。さすがに失礼だし、その辺は私も弁えている。でも、嫌なものは嫌だ。全力で否定したからなのか、お兄さんも遥香さんも目を丸くしている。 「朝比奈くんは時々馬鹿…‥じゃなくて、時々煩いけど優しいし。……私が落ち込んでる時とか、色々気にかけてくれるんです。だから、なんとかなってるとこもあって。……大事な友達です」  ユイが傍にいなくても、なんとかやれているのはヒナがいるからだ。そうじゃなかったら、とっくに心が折れている。 「あ、片思いしてるとかもないので。全く。微塵も」  本人じゃないからまあ良いかと本音を並べたけど、変に勘違いされても困るなと思って付け足した。ヒナも遥香さんに誤解されるのが一番嫌だろうし。結局、バッサリ言い切ってしまった。
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