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「そっか。次朗は俺とはあまり喋らないから、普段、どんな風なのかよく知らなくてさ」
ヒナはあんなによく喋るのに、お兄さん相手だとそうじゃないらしい。意外な一面を聞いた気がしたけど、遥香さんのことを考えれば当然なのかもしれない。
「マミちゃんみたいな子が友達で少しは安心したでしょ?」
「うん。友達に恵まれてるんだな、次朗は」
遥香さんに笑いかけられて、お兄さんは頷いた。悪い気はしないけど、本当に友人に恵まれているのは私の方だ。
幕が降りたステージでは、きっと演劇部が撤収の作業をしている。ステージ発表、今日のトリは演劇部だった。下にいる観客達は移動しているし、私達の周りも解散の雰囲気が流れ始めていた。
「でも残念だな。友達も良いけど、マミちゃんみたいな子が妹になるならもっと嬉しかったのに」
「気が早すぎ。高校生にそんなこと言ってどうするんだよ」
「そんなことないと思うけどな。私と理生が知り合ったのだって二十歳の時だよ? そんなに変わらないじゃない」
「そうだけど……」
妹って、義理の妹って意味か。ヒナの気持ちを知っている分、何気ない二人の会話にも複雑な気分になる。というか、今更だけど、私とお兄さんと遥香さんってどんな組み合わせよ。謎すぎる。ヒナに連絡してみようかなと思いつき、ブレザーのポケットに手を入れた。
「……でも、次朗くんの彼女に私、きっとヤキモチ妬いちゃうんだろうな」
「え゛!?」
やばい。過剰に反応してしまった。折角、取り出したスマホも落とすところだった。色んな意味で焦ったけど、遥香さんは唇に笑みを乗せたままだ。お兄さんは慣れているのかもしれない。「またそんなこと言う……」と呆れ気味だ。
「ずっと慕ってくれるから。寂しいしちょっと面白くないと思うのかなーって。だって、初めて会った頃は私と身長ほとんど変わらなかったし、声だって高かったんだよ」
遥香さんは懐かしそうに目を細めている。初対面、小六の冬って言ってたっけ……と振り返る。私自身はその頃、何をしていたかなんて覚えていなかった。『遥香さん来てるよ』ーー良し、送信。
「明るくて素直なところは変わらないけど、いつの間にか大人びた……というより、理生に似てきたよね」
「そうかな。似てるとはそこまで言われないけど」
「うーん……確かに次朗くんには理生みたいな傲慢さはないと思うけど」
え、そんなこと言っちゃうんだ。そう思ったのは多分、お兄さんも一緒だ。虚をつかれたみたいな顔をしている。それにしても、すごいな、遥香さん……。言葉を失うほど容姿端麗なお兄さんに、ここまで言えるのは、もしかしたら遥香さんだけかもしれない。口調が柔らかいからか、全然嫌な感じしないし。お兄さんもビックリはしていても、不愉快そうではなかった。
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