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格好良い振り方とはどんなものだろうか。本心を言えば好きな人がいると言った後で遥香さんの好きなところを列挙したいところだが、流石に不味いことはなんとなく分かるので却下だ。今は勉強に集中したい? そんなこと言うほど頭良くねえし。部活は……イマイチ弱いか。他に相応しい人がいる? 俺は君を幸せにはできない? ああ、なんか良いかもしれない。若干クサいが。……などということをひたすら考えているうちに、午後の授業は過ぎていった。
ーー良し。当たって砕けるわけではないが、何故かそんな気分だ。脳内で散々イメトレした所為なのかもしれない。大丈夫だ、大丈夫と繰り返し呟き平常心を保っていると「ヒナ!」とマミが慌てて駆け寄ってきた。「なんだよ」と一応返事はするが、今、マミに構っていられるほどの余裕はない。
「アオ様来たんだけど……!」
「え、」
マミの視線の先を追えば、ドアの傍でユイとアオ様の間に微妙な空気が流れていた。ユイも驚いているのか固まっている。突然のアオ様の来訪に教室内もなんだか落ち着かない雰囲気だ。
「朝比奈呼んでって言われたの」
「なんで」
「なんでって、ヒナがハッキリしないからでしょ」
マミとヒソヒソと話をしながらアオ様の方を窺えば、ユイと目が合った。ユイとマミの席が声をかけやすい出入口の傍なのに対して、俺の席は窓際の一番前だ。位置としてはほぼ対角線上で結構な距離があるが、ユイの目は明らかに「良いから早く来い」と訴えていた。特に何か会話をしている風でもないから、間が持たず気まずい思いをしているのかもしれない。俺はそれ、昼休みにやったんだぞ。どうだ、気まずいだろうと高みの見物をしたかったが、そもそもの発端は俺なのでそんなわけにもいかない。巻き添えにしたいわけではないのだ。
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