さよなら

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さよなら

1ヶ月間はタマキの言う通り ただ普通に学校生活を送っていただけで終わった 簡単そうに思えたけどなるべく自然に見えるように、今まで通りって中々難しかった その間はシキコーの学祭があったから それに向けての準備で大忙しだったのもあって BLACKOUTのお世話になることも殆どなくなっていた 10月になってからは金曜日の放課後から週末にかけて行くところが出来た “クソ野郎の溜まり場” タマキはそう呼んでいたけど… BLACKOUTの煙が充満していて空気が重い けどその甘い香りを吸うと気分が高揚する うめき声や叫び声が耐えない場所 そこはBLACKOUTの中毒者の溜まり場だった そこでオレは人を薬漬けにしたり 薬に溺れて壊れた奴を玩具にして遊んでいた そいつらに痛みを与えながら思う オレだけはお前らのこと見てるから…さ だから安心して薬に溺れていいんだよ…? 嬉しいよね…? 嬉しそうな奴もいれば、怯えてるような奴もいる どんな感情にせよオレが見ればこいつらもそれを返してくれる それが楽しくてしょうがない 嫌なこと全部忘れてオレと遊ぼう…? タマキもクソ野郎の溜まり場なんていいながら ここにくるのが好きみたいで オレが玩具と遊んでるのを見て楽しんでいるみたいだった タマキが楽しそうだから オレも楽しい 最近は週末が楽しくてしょうがない そして月曜日からはまた普通に学校に通う そんな日々を暫く送っていたら気がつけば 12月になっていた いつも通り学校終わりにオレの行くべき場所に向かうと珍しくタマキが先に着いていてびっくりした 「タマキ?珍しいね、先に着いてるなんて…何かあった?」 そう言いながらタマキの隣をすり抜けようとするとタマキにそれを阻まれる 「ナオヤ、今日はアイツらの相手しなくていい」 「え?」 何で急に… 何だろう過去にもこんなことあった…気がする 酷く不安になる 今日はまだBLACKOUTを吸ってないから余計に そんな事を思っていたらタマキに急に腕を取られる 「タマキ?」 「いいから着いてこい」 辿り着いたのはSMOKILLのアジトだった 「そこに座ってろ」 言われた通り近くのソファに座る タマキが黒いケース持ってオレの隣に座るとそれをオレに向けて差し出してくる 「え?」 「これ、ナオヤに。今日クリスマスだろ?」 「えっ!…あっ!クリスマス…だったんだ。 ごめん!オレ何も用意してなくて…!」 「いい。お前は俺を楽しませてくれればそれでいい。」 クリスマス… そもそも今までに何かを貰う以前に何かをした記憶すらなかったから全く意識してなかった 明人がよくサンタさん?って人にプレゼントを貰ってたっけ…… そうか、クリスマス…か なんだか初めての感覚にワクワクした 「ありがとう!!…開けてもいい?」 「あぁ」 特にラッピングされていないシンプルな黒いケース 結構重いけど 何が入ってるんだろう ゆっくり開けてみる 「!?…これ!」 中には拳銃が一丁入っていた 「俺、拳銃使ったことないからびっくりした!!!」 普段戦う時は殴った時とか刺した時の感触が好きで、大体素手かナイフが主流だった 拳銃…使ったことないけど、タマキからのプレゼント…素直に嬉しかった 「これ、タマキみたいに使いこなせるかなぁ」 「大丈夫だ。それで試し撃ちするか?」 「試し撃ち?出来るの?」 「あぁ。こっちだ。」 タマキが楽しそうに笑う あぁ。嬉しいなぁ タマキが地下に向かっていくのを後ろから追いかける 地下に降りてからもタマキはまだどんどん奥に進んでいく 「結構奥なんだね…?てかオレこんな奥まで初めてきた」 「まぁな。」 地下の奥に試し撃ち出来る場所でもあるのかな…? 地下なのもあってどんどん薄暗くなっていく タマキ、黒いから見失っちゃいそうだ 「着いたぞ」 ここ…牢屋? その中に誰か…いる? 目を凝らしてみるとそこには鎖で繋がれた人間…?が居た ガシャン!! タマキがいきなり牢屋の柵を蹴り飛ばしたから派手な音が地下に鳴り響く そしてその音が合図のように牢屋の中の人間が呻き声を上げながら動きだす 「タマキ…?これなに?」 「わかんねぇのか?よく見てみろよ」 そう言ってオレの体を牢屋の柵に向けて突き飛ばす その衝撃で体が柵にぶつかって痛い でも牢屋にさっきよりも近づいたことでより中が鮮明に見えるようになった !? もしかして… 「父さんと…母さん…?」 「ククク…お前の弟が死んでからさ、大変だったんだよ… 死んだって言ってるのにそいつら明人だせってしつこくてなぁ。」 明人が死んでから… 確かに明人が居なくなってるのに両親が動かないわけがない 「んで、ちょうどその頃BLACKOUTがたまたま手元にあったから試しに打ってやったら大人しくなったんだよなぁ」 タマキは物凄く楽しいことのように話す 「ただ薬が切れたらまた騒ぎ出すからな、その度に打って黙らせて…そしたらさ、そいつら壊れてた」 それはまるでオレがいつも相手にしてる中毒者のようだ 「終いには明人って名前すら言わなくなったから、もう打つ必要もなくなったのに薬が切れると暴れ出して薬を求めてくる。結局手が負えなくてここに死なない程度に繋いでたんだけどなぁ。 まぁ、お陰でBLACKOUTのこともよく分かったし、 もうこいつらはお役御免になって、ナオヤの試し撃ちの的になってもらうことにしたってわけだ。」 なんでだろう 両親なんてオレにとってはどうでもいい存在 オレのこと一度だって見てくれたことなんてない なのに なのにショックを受けている自分がいる 何で…… 「タマキ…あのさ… 試し撃ち、他のもので出来ない?」 「は?何言ってんだ?お前にとってコイツらなんて今更どうでもいいだろ… 最後まで明人の名前は出したけど、お前の名前なんて一度だって出さなかったぞ?」 そうだ… 2人の中でオレは元々存在してなかった それならタマキの言う通りここで殺しちゃっても何とも思わないはず… いやでも やっぱりこんな親でもオレの唯一の家族だから 「ハァ…お前、何か変わったな。前ならこんなの直ぐに片付けてただろ?」 タマキが後ろで呆れたように言う そうだ。 前のオレなら絶対に迷わず殺していた。 オレが変わったのは シキコーに入ったからだと思う 皆優しくしてくれて、そんな中に居たからオレも変わったんだ。 「…つまんねぇ奴」 タマキの冷たい声 それが聞こえたと思った瞬間 思いっきり後頭部を殴られた 脳震盪を起こしたのか頭がクラクラして直ぐに起き上がれない 「タ…マ、キ…」 「ナオヤはさぁ…俺の役に立ちたいんじゃないの? ここに戻って来た時に俺のこと守るって約束しただろ?」 タマキ…ごめん そう言いたいのに声が出ない 「あーあ。結局ナオヤはまた俺を裏切るんだ。」 タマキを裏切る…? それは絶対にしてはいけないこと タマキはオレの全てで… オレのこと唯一見てくれたのはタマキだけで… 「…ナオヤ、最後のチャンスだ」 そう言ってタマキがオレの目の前に注射器を数本落とす …BLACKOUT この2人はオレのことなんて1度だってちゃんと見てくれたことない いや、父さんは少しだけ見てくれた…けど 最終的にはオレのこと捨てた それにもうオレのことなんて本当の意味で忘れてるだろう それならやっぱりここで楽に死なせてあげた方がいいんじゃないのか 「お前がやらねぇなら俺がやるけど?」 オレのせいでタマキの手が汚れる オレがどうしたいじゃなくてタマキが言うことは絶対だ タマキは全部正しい 正しいからオレは言われたことをやるだけ …だから オレは床に落ちているBLACKOUTを手に取って腕に打った 1本 2本 3本 「ふーん?」 タマキがスライドを引いて銃をこちらに向けてくる 「こうやって頭を狙え。」 オレは向けられてる拳銃を受け取って それを彼らに向ける 「…ゆ、る…して…」 何かがオレに向かって何か言ってる でも何を言ってるのかオレには理解出来なかった 「…ナ、オ……」 「さよなら」 そのあとは何が起きたか覚えてない 気がつけば 周りは血の海になっていた 人間だったであろう塊は動かなくなっていて人形のような目がこちらを見ている ウッ、ゴホッ…オエッ… 気持ち悪い 薬を一気に摂取したせいなのか それともアレを見たせいなのか 血なんて見慣れてるはずなのに うぅ… 見たくない 見たくないのに目が離せない 涙が止まらない そんな時、目の前がスっと暗くなる タマキの手で目元が覆われたらしい 「メリークリスマス、ナオヤ。」 そう耳元で囁く声 自然と落ち着いてくる フワフワしてきて なんか もうどうでもいいや… どうにでもなれ タマキさえ傍に居てくれればそれで タマキの楽しそうに笑う声を聞きながら オレはそのまま意識を手放した 1月 オレはシキコーに行くことはなかった 正確には通えなくなった 夜1人で眠ると必ず魘されて幻覚を見るようになった ハァハァ ハァハァハァハァ 血塗れの母さんと父さんと…時々明人が出てきて無言でオレのことを見てる 今までとは真逆 今までは全く見てくれなかったのに そんなに冷たい目で見ないで欲しい ハァハァハァハァ 怖くて怖くて息が出来なくなる 鳥肌が止まらない 早く、早く、薬、薬を打たないと 殺される…!!! 必死の思いで注射器を腕に打つ そうするとオレの周りには誰も居なくなる これでようやく眠れる… BLACKOUTが手放せなくなった これは魔法の薬 怖いものを消してくれるし 不安も消してくれる そしてタマキが喜んでくれる オレが狂っていればいるほどタマキはオレを見てくれるんだ こんなに幸せなことはない 本当にこれでいいのか?どこかで自分の声がした これでいい だって これがオレの今の生きる意味だから…? end. ☞あとがきです
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