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俺は振り返って、セドリックを見上げた。
彼は『大魔法使い』ではなく、ただただ、幼い孫娘を案じる老爺でしかなかった。
「メイの『使い魔』になってやってほしい。」
「は?」
「私が寿命を終えれば、君は解放されて故郷に帰って悠々自適に、好きに生きることが出来る。それが猫たる君の本質だと言うこともわかっている。」
セドリックは大きく溜息をついた。
「メイは強大な魔力を持って生まれてしまった。おそらくは、私を凌ぐほどだ。」
「ああ。魔法族の長や長老たちは、放っておかないだろうな。メイは魔法族の希望になるだろう。」
「私はメイに幸せになって欲しい。何ものにも囚われず、自由でいて欲しい。」
それは『大魔法使い』と呼ばれ、数々の柵に縛られ、そのほとんどの人生を不自由の中で生きてきた彼の本音なのだろう。
「今はまだ、いい。魔力も封印したし、私もいる。だが、私が亡き後、封印は徐々に弱くなり、やがては解けてしまうだろう。その時に、メイを支えてやってほしい。」
俺は黙ってセドリックを見つめた。
主としてのセドリックは、俺を命あるものとして、対等に扱ってくれた。
理不尽な使役もされなかった。
むしろ、面白おかしく日々を過ごしていたような気すらする。
それでも、全く不自由を感じなかったわけではない。
何故なら、俺は猫だから。
気まぐれで、気ままな性分だから。
「あー、猫さん!!」
パタパタと足音を響かせて、メイが走って来る。
その小さな体に閉じ込められた力は、いつかこの無邪気な子どもを翻弄する日が来るのだろう。
それは柵となってメイを縛ってゆくのか、それとも、受け入れ魔法使いとして歩んでいくのかー
「…わかった。時が来たら、使い魔としてメイに仕えよう。」
「すまない、そして、ありがとう、フォレスト。」
セドリックは古い魔法の言葉で呟いた。
「ねーこさーん。」
メイは俺をセドリックの膝の上から持ち上げると、やっぱり力いっぱい抱きしめるのだった。
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