本編

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「性の香りが似合わない無垢な子供の身体を汚すのだから、とびきりその清純さを強調しようと思っただけだ。最初くらいな」 「へ、変態……」 「何を。俺なんて50ちょうどの年寄りが二十歳の娘を孕ませてできた子だぞ。父上と比べれば可愛げのあるほうだろ」 「常識が違う……うあ……ッ」 腹の上を這う指が胸まで到達した。先端の小さな飾りを軽く摘むと、ゆずるの口から思わず声が漏れる。気を良くしてくにくにと押し潰すように指を動かした。身を捩って逃げようとするのも構わず上からキスをして押さえ込むが、まだもぞもぞと動いている気がする。 ひょっとしたら、これが精一杯の抵抗なのだろうか。ジェラルドは不安になった。元より屈強な体躯をしている彼からすれば少し身動きをしている程度にしか感じないが、よく見ればびくびくと身体を震わせている。 大人と子供の差を考えれば、一つ一つ了承を取ってことを進めるほうが適切かもしれない。 昼間アルストにから散々刺された釘が効いたわけではないが、そんなことを思った。 「今からお前の身体に触れる」 「も、触ってる……」 「これはただ表面を撫でてるだけだ。これから、お前の中に入るために触れる」 「俺の中に、はいる……?」 既に涙の溜まった瞳できょとりと見上げられて、ジェラルドは暫し考える。 ひょっとして、性行為のやり方を知らないのか。 「俺にもお前にも同じ形の性器がある。それはわかるな」 「う、うん」 「女は凹凸の凹しか持たないが、男は凹凸の両方がある。ただ、普通は片方しか使わないだけだ」 つ、と布越しにジェラルドの指がゆずるの臀部を撫でた。その双丘の谷間に指を挟み込み、まだ濡れていない穴めがけてくいくいと中指を折り曲げる。 「ここに、俺の性器を挿れる」 ゆずるは目を大きく開き固まっていた。びくびくとした身体の小刻みは震えは止まっている。案外冷静なものだなと考えた矢先、劈く悲鳴がジェラルドの鼓膜を襲った。念のため部屋に防音の魔術を施していた甲斐があったとため息を吐く。 「無理無理無理! なにそれ! え、なにそれ! 入るわけないだろ!?」 「……アルストから準備は整ったと言われたが」 「あ!? あれそういう意味!? 確かに妙に隅々まで身体洗われたけど! いつも俺が嫌がったらやめてくれるのに!」 「今日入らないなら入るまで時間を掛ける。止めるという選択肢はない」 断固として言い放ったジェラルドにゆずるは顔を青くさせた。無理なものは無理だ。それってケツの穴から手突っ込んで奥歯ガタガタ言わせるって言ってるようなもん。現実的じゃないし、多分やったら死ぬ。 「死ぬ……死んじゃう……」 一度目の邂逅以来の命の危機を感じてはらはらと涙を流した。それを前にすると無表情ながらもどこか困り顔で進める手が止まってしまうのは、結局のところ彼の涙には弱いからだ。 惚れた弱みというものを、ジェラルドは初めて知った。 「……この身体は精通してるのか?」 「な、何聞いてんの!?」 「どうなんだ」 茶化すわけでもなく真剣な声色で聞いてくるので、小さくか細い声で「……まだ」と答えた。ゆずるとて知識はあるのだ。ただ、本当に知識だけ。 足りない経験と知識の中で考えるに、今晩行われる『抱く』というのはジェラルドの手によって射精することを指すのだと思っていた。部分的には間違っていないが、いかんせん予備知識が不足し過ぎている。気恥ずかしさから聞いて確かめることもできず今に至るのだった。 正直にそのことを話すと、ジェラルドは特に気を荒立てることもなく「わかった」と聞き分けの良い返事をした。何がわかったのかと問う暇もなく再びレースの裾が持ち上げられる。 「や、ちょ、え、え!?」 「うるさい」 根元までぐっぽり口の中に収められてもまだ呂律の回るほど余裕のあるジェラルドの広い口腔に包まれ、柔らかな性器が震えた。腕と上半身を使って押さえ込まれると手足を動かす余裕もない。ず、ずぞ、と何かを啜る音はゆずるの知っているものに例えると蕎麦を啜るみたいだな、と色気のないことを頭の片隅で思った。 「あ、あ、……っ」 気持ち良いのか悪いのかわからない。どちらかと言えば、体験したことのない感覚は気持ち悪かった。全身が粟立つ。それでも熱いものに包まれてねっとりとした柔らかい粘膜の中で嬲られると、言いようのない感覚が腰の奥から迫り上がってくる。 ゆずるは気づかなかったが、若い男性器はとっくに芯を持ち始めていた。 根気よくたっぷり時間をかけて愛撫すると、性器が屹立する頃には全身が蕩けて脚に力なんて入らなかった。 「ひっやぁあ……ッ、それやぁ、やだ……ぁッ」 抵抗するのを押さえ込む必要がないから、自由になったジェラルドの手のひらがゆずるの太ももや足の裏をくすぐる。今までならただ擽ったいだけだったその感覚まで腰を甘く重くした。健全なこそばゆいという感情が痺れるような快感と結びつけられる。舌の動きはともかく足の裏を這いずる指はただくすぐったいだけなのに、なんだかとてつもない辱めを受けているとさえ感じた。 「ひ……ああ゛……ッ!?」 ぴんと膝から足の指まで真っ直ぐと伸びる。漏れるとか出るとか、そんなことを思う暇がなかった。ただ粗相をしたことだけはわかる。足の先から脳へと抜ける恍惚が何よりもその証拠だ。断続的に震える腰と回数を分けてぴゅくぴゅくと飛ぶ精子を止めることもできず、先端を舐め尽くされ吸われた。 ジェラルドは口の中に放たれた精液を黙って飲み込むと、ようやく口を離す。 「ご、ごめ……なしゃ……」 疲労感と羞恥から口が上手く回らない。興奮が抑えきれなかった唾液がたらりと口の端から漏れた。それを指で掬い取り舌舐めずりをしたジェラルドが笑う。部屋に入ったばかりのときに見た微笑みとは程遠い、狩猟本能を疼かせた獣の笑みだった。 「今日奪える初体験は奪えるだけ全て奪う……と言いたいところだが、バテるのが早い。体力をつけさせるのが先だな」 虚げな瞳がジェラルドを捉えたのはそれが最後だ。黒石の瞳の上をゆっくりと瞬きするようにまぶたが落ちると、そのまま朝まで開くことはなかった。
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