ヒョンヒョロ 藤子F不二雄 異色短編集1収録 SFマガジン掲載

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「うさぎ」ですが、先述の彼らと違って人間をナメ切ってるのか、態度が不遜。だから説明なかった(しなかった)のかなって…… 脅迫状のガバガバっぷりと、おおよそ交渉役に相応しくないマーちゃんを選んだこととか「うさぎ」の不手際はたっぷり。前者は「手紙にそう余計なことを書かなくてもわかるだろう」って「うさぎ」の世界の常識なのか、意図的なのかがわからなくて薄気味悪い。後者に関しては「分裂繁殖」だから子供という概念がなく、ヒョンヒョロを持ってるってだけで選んだ可能性大ですね。 多分ですが、創作物の中でもかなりの不条理系バッドエンド。ひとりぼっちの宇宙戦争(いつか取り上げます)で、ハデス星側が勝ったような後味の悪さを感じました。 「うさぎ」=ハデス星、「マーちゃん(戦ってる自覚なし)」=地球。 果たして、誘拐された全人類はどうなるのだろうか。ひとりぼっちの宇宙戦争だと負けた星の人間は「ペット」「奴隷」「食料」と悲惨の極み。この当時の世界人口は40億として、どうするつもりなんだろうか。 興味深い「うさぎ」のセリフ。 「葉っぱや魚の死体を食うですか? 大変素朴な食事ですね」 野菜を食べる概念と魚を食べる概念がない世界からきたってことですよね。生き物を食べる概念がない世界から来たなら「食料」になることはなさそう。ま、魚を食べる概念がないだけで猿を食べる概念があるかもしれないので、油断はなりませんが。 ヒョンヒョロはまだ地球にあるんですよね。「うさぎ」にはマーちゃんに再交渉をして誘拐と取り消して貰いたいものです。 これを書くにあたって読み直して気がついたこと。両親はマーちゃんに脅迫状の中身を説明していないんですよね。 母親が「ねぇ、マーちゃん? ヒョンヒョロを下さいってどういうことかしら?」 多分この一言だけで「これだよー」ってオモチャ箱から持ってきて、運が良ければこれで話が終わっていたすらある。そもそもマーちゃんは「読み書き」が出来ない子供、この作品、序盤の脅迫状は「マーちゃんがイタズラで書いた」と両親は認識していた模様。「読み書き」が出来ない時点で「マーちゃんがイタズラで書いた」説を除外して、ヒョンヒョロの件を聞くことが出来ればと思うのですが……  キツイことを言うなら…… 親子の間で相互理解が出来てなかった故の悲劇ですよね。この話。本来なら「うさぎ」とマーちゃんだけの交渉で、大人たちは蚊帳の外だったのだから、手紙を読んであげるだけで良かったんですよね……大人は「ヒョンヒョロを渡しなさい」って言うだけの役割しかなかった訳で。 イデオンでもそうでしたけど、アジバ親子もベス親子も相互理解出来てませんでしたね。 いくら親子でも、臍帯(アンビリカルケーブル)が切れた時点からお互いに何を考えているか分からない「他人」に過ぎないのかもしれません。 「わかりあえるまで、言葉を重ねる」難しいことですけど、これが相互理解に必要なことかと思われます。
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