# 僕にとっての可愛い味

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# 僕にとっての可愛い味

チカチカと光パソコンを横目に、 殴りかかってきた男たちを捌く… 急にカチッと音がしてキィーンと金属音が響いてくる…耳元が痛い… どうやら迅くんが何かを仕掛けてるのか? 男達に殴りかかる動作と一緒に、 さっき俺につけたペンよりも小さい何かをつけてるように見える… 戦うと言うよりも不思議な動作を繰り返しているような… よそ見をしたせいか、 ザッと3人ほどに取り囲まれ殴られた。 まずい…!!イタッ… 急に俺が取り押さえられた瞬間、 迅くんが俺に向かってくる男の肩に飛び乗って顔に機械を取り付ける。 何?あれ…… 「…痛いから頑張ってね♡」 ピッと音がした瞬間ジワッと肉の焼ける音がする。 付けた装置から熱が発されてるのかな… あれは絶対痛い…… 周りが油断した隙に取り押さえてきた男を振り解いてから思い切って俺も反抗して蹴り飛ばす。 その蹴り飛ばした先にある棚に 男の体が打ち付けられると、 中から大量の薬が出てきて床に散らばった。 吸わないようにしなきゃ… 急いで手元で口を覆ったがあまりに烟りが広がって咳き込んだ… ッ最悪だ…苦しい… 即座に迅くんに引っ張られ、 ぐいっと口に手を当てられる…… んん?!? …当てられた手に薬があったのか… 迅くんの手を舐めるようにして薬を一つ飲む… 「いい子」 小さくそう聞こえた気がする…… ……不思議と言うこと… 聞いちゃうんだよね… …… 春輝くん達と鍋パーティーをした時に迅くんが俺を部屋に招いてくれて… その時に会話をしたんだけど パーティーの後に不意に迅君が俺に声をかけてきた… 「あれ?絢世くん…暇なの? だったら旅行の場所選び付き合ってよ♡ おやつ持って僕の部屋行こう?」 「うん!皆お風呂だし暇〜! 場所選び一緒にする!いっぱい持っていくね」 部屋にあったお菓子をたくさん持って、 小走りで迅くんの部屋に行った… 部屋に入ると細かい機械があちこちに散らばっている…工具?道具?何かを作るんだろうか… 「どこからそんなにオヤツ出てきたの? …あ、僕の部屋、誰も入ったことないから特別ね♡ 機械だらけだし、 いろいろ壊さないように気をつけて。」 入るのにドキドキハラハラする。 踏まないように…慎重に… 「カバンにね〜財布と充電器とお菓子しか入ってないの〜… 特別?いいの…?嬉しいけど…!… 気をつけるね!」 “特別”そんな言われ方をすると誰でも嬉しいだろうけど……緊張するなぁ… 迅くんは部屋に招きながらベッドに座るよう促してきた、物がほとんどないから確かにその位置なら座れる。 ベッドの横に簡易机を引っ張り出しておやつを置かせてもらった。 好きなお菓子の話をしたり、 みんなで行く旅行の話をしたり、 割と普通の会話をしていた。 迅くんはチョコやグミが好きなようで、 部屋に冷蔵庫があり、中に入ってることを教えてくれた。 そういえば春輝くんもお菓子よく持ってるよね…そう思って 「春輝くん、…よく人に渡してるよね?」 なんて口に出すと迅くんは、 「そうだね…餌付けなのかな…僕もやってみようかな♡…はい、絢世くんグミだよ〜お口開けて〜」 なんて、ふざけてグミを食べさせようとしてきた… 「うん?」 素直に口開けてみるが、 「誰にでも口、開けてたら… …いつか食われちゃうよ?」 なんて、うまくかわされグミは貰えなかった。 くれないのかぁ… くれないのに俺の唇をフニフニと触る… 悪くは無い… 「誰にでもは開けないよ〜 ていうか俺食べても美味しくないよ?」 なんてちょっとムスッとしてみた。 「ふーん… 食べてもいないのに、美味しいのかどうかなんてわからないよ?」 確かに… 俺の頬っぺたを摘みながら迅くんはニコニコしている… 何考えてるんだろう… 「…じゃあ迅くんが食べる?」 「食べてほしいなら食べてあげるけど…後悔するよ?♡」 「後悔しないよ?」 トンッと俺の肩を叩いてベッドに寝かせてから 袖からゆっくり中に手を入れて軽く傷を撫でられる…今思えば…迅くんにも傷が…あるんだよね… 「………後悔しない…?試そうか?♡」 手に持っていたお菓子ごと指を舐めて目を細めて笑いながら 「 なんて、ね。」 と言ってからゆっくり離れた後雑誌を取り出していた… 「ざんねん」 離れたのを見て起き上がる… ……びっっくりしたぁ… 迅くんかっこいいからドキドキしちゃった… 自分の耳に触れる、熱くなってる… はぁ… 男性でも迅くんに近づかれたらみんなドキドキするだろうなぁ… 「絢世くんが、その気になったら…また続きしてあげるよ♡」 迅くんはそんなことを考えてる俺なんてお構いなしにそう言ってから違う話を続けた… こっちの気もしらないで… 不意に好きなお菓子の話に戻った。 チョコレートが好きで部屋に冷蔵庫を用意するくらいだ…どうやらケーキが好きみたい… “ケーキってご褒美って感じがするでしょ? 誕生日とか祝い事で食べる習慣があるからワザと何でもない時に食べたくなるんだよね。” と言っていた… ワザと…なんでもない日? なんだか皮肉めいた言い方だけど、 どんな意味があるのか検討もつかない。 気になるケーキを買ったから後で一緒に食べる約束までしたし… 本当に普通の友達って感覚で話せてる… 芸能人だってこと、つい忘れちゃうんだよね… 凄い人の筈なんだけど… ケーキの話から可愛い味について話していた… 迅くんが気になって用意していたのは “フランボワーズ”のケーキらしい… 確かお母さんがフランボワーズを可愛い味と言っていた… 「フランボワーズ…可愛い味がするよね」 俺が言うと、 「可愛い…味?…ふふ…初めて聞いた」 優しく笑いながら迅君が首を傾げて 「絢世くん面白いよね。」と言ってくる。 あれ?みんなは可愛い味とか言わないのかな? 「可愛い味!… お母さんもそう言ってたから普通かと思ってた… 俺面白いの?それこそ初めて言われたけど」 「ふーん、お母さんが変わった人なんだろうね…? …まぁ、他人の普通は僕の普通とは違うから… 面白いよ? …僕も使おうかな“可愛い味”♡」 可愛い味使ってもいいよ?と言うと、 可愛い味について教えて欲しいと言われた… 感じた時に教えていくしかないけど… 俺と同じ言葉を使ってくれるの嬉しいな。 …そんなこんな、 鍋をみんなで食べていた時に旅行先の話になって、 ありがたいことに、俺の卒業祝いを兼ねて俺の行きたい所にみんなが付き合ってくれるという話から、 “甘いものを食べたい”というリクエストを出した。 どうやら甘いものが苦手な人もいるみたいで、 離れ離れになるかもしれなかったが、 みんな同じ場所でも条件をクリアできる場所があるみたい… 「よかった、離れたら寂しい」ということを口に出して伝えると迅くんが寂しがり屋なのかと聞いてきた。 寂しがりや…だと思う。 1人でいると、苦しくなる。 誰かといないと落ち着かない。 「ちょっとだけ不安になっちゃう でもずっと一緒なんて無理だからさ〜 寂しがり屋なのはそう!俺ウサギだから」 うさぎのポーズをしながら迅くんに見せる。 「うさぎ…ね、 じゃあ絢世くんがいたら幸福でも来るのかな…? うさぎは縁起がいいんだよ。 ……幸せになんか、中々なれないけど、人ってなんでそういうもの憧れるんだろうね。 …寂しがり屋な割には、 あまり誰かに甘えたりしなそうに見えるけど? 僕の気のせいかな?」 うさぎのポーズ可愛いとかは言ってくれなかったな…そっと手を下ろして少し悲しい顔になった。 でも迅くんはタブレットを操作して旅行の資料をまとめてるし…こっちは…見てくれないか? 「そうなの?知らなかった! 亀とか鶴は縁起いいの知ってたけど こんな事あんまり言わないけどさ…甘えたいけど甘えたら怒られるかな〜って…思っちゃって…」 「うさぎは確か幸福とかって意味があったと思うよ? …子宝に恵まれるんだったかなぁ…絢世くんが誰かと子供ができた時にはたくさん授かったりして♡ …そうかな? ……この家にいるメンバーは甘えたい時結構甘えられるからね、好きにしたらいいよ。」 そんな話を聞いて嫌な気持ちになる。 子供…か… 「こ、子宝?! 俺あんまり子供欲しくないなあ… 皆優しいもんね… ……迅くんに甘えたいな…落ち着く」 小さな声で呟くように言ってみると、 タブレットから目を離してこっちを見た、 目があって暫く離せなくなった。 「絢世くん子供苦手なの? …家柄無理矢理結婚とかさせられそうな感じするけど… 僕みたいに…… ……甘えるって、 どうやるんだろうね? うーん… 僕の腕中とかに来てみる?」 タブレットを置き手を広げて 「寄りかかってもいいよ♡」なんて1人用のソファに座ってるけれど来るように手招きされる。 「まぁ実際… データ上は僕の方が歳上だから甘えたい時に甘えてみれば? 全てに応えるとは限らないけどね。」 データ?…どういうことなんだろうか… 「ちゃんと育ててあげられなさそうで苦手 そうだねえ、お見合いの話とか沢山あるし… 何なら勝手に決まりそうだけど… 迅くんも? じゃあお言葉に甘えて…?」 少し躊躇いながら近寄って座った。 変な感じ… 「ふふ、ありがとう 迅くんも俺で良かったら甘えていいよ〜?」 「育てるのは絢世くんじゃなくて、 パートナーがすればいいんじゃない? 別に義務じゃ無いわけだし、 男は子育てそこまでやらなくていいと思うけど。 …同じだね? 勝手に決められるの心底嫌だから僕は破棄するよ。 家に出来る限り反抗していくつもり、  今だってここにいる事よく思われてないからね。 ……ただ、 最期まで負ける気は無いよ。」 座る俺を強めに抱きしめながらタブレットをまた触りはじめた。 「…絢世くんに…甘える? うーん、 じゃあ、今日は一緒に寝ようか♡」 特に目も合わさずにタブレットを触り続けて旅行先の資料をまとめているので、 本気かどうかは分からなかった… 「そういうものなのかなあ、 相手に子供任せ切りで俺1人になるくらいなら相手と2人でいきていくほうが楽しそう… そっかあ、迅くんは強いね… 俺ももっと反抗できたらなあ 昔よりは反抗しまくってるけど」 ……一緒に…寝るって、どういう意味だろうか… …変なこともよぎる… 「えっ、う、うん???…迅くんってこういうの慣れてる?ていうか邪魔じゃない…?」 目が合わないのもあって少し不安そうに聞いてみると、内面を覗かれるような返事が来た、 「それ、内心では子供に愛情がいくの嫌って言ってたりする?絢世くんって、もしかして嫉妬深い子なの? 強ければ強くあるほど自分に自信がつくからね…? でも流されてる方が自分で決めるのが苦手な人には都合がいいし楽だよ。 …絢世くんが本気で逃げたいなら、 一緒に逃げようか♡」 やっと目があってポンポンと頭を撫でながら言われて、ホッとする。 「慣れてるよ、 男女問わず相手ばっかさせられてきたし。 …まぁ全部ウチの契約のためだけど… もうやってない。 頑張る必要無くなったし。」 タブレットからプリンタに印刷をかけたのか、プリンタが作動している。 「出来上がったから春輝くんのとこに持っていってくれる?」 最後の一枚が出きったのか、 資料を手に取り俺に渡してきた。 「意識してないけど… 前春輝くんにも独占欲強いの? みたいな事言われた気がするからそうかも… そうだね…自分で決める…かぁ… あはは、迅くんが一緒に逃げてくれるなら心強いねえ そっか、 ごめんね、 やな事聞いちゃった気がする… でももうやらないでも良いなら良かった…」 …未だにやられてる俺のこの体… …反抗はできない… 気持ち悪い、あの手や息遣い… 少しだけ微笑んで無理に立ち上がった… 「ん!持っていく! 作ってくれてありがと〜! 綺麗に纏まっててすごいねえ」 ペラペラと中身を見ながら笑いかけた。 「欲がない奴ほどつまらないし… いいんじゃないかな♡ ふふ… 信用したらダメだよ、 きっと僕は1人で逃げちゃうようなタイプだろうから絢世くん困っちゃうだろうし。 うーん… 嫌な事でもないかな、 あの時はキツいって思っていても今考えると別に? 大した事なかった… そんな風に考えとかないと、 この先もっと辛いことがあったときに立ち直れないじゃない? 特に纏めるのに時間かからなかったし… 綺麗というほどでもないよ、さ、いっておいで♡」 トンッと背中を押され、 部屋から無理矢理出されたような気がした、 ガチャと明らかに鍵をかけたような音がして びっくりする。 「すっごいあからさまに鍵閉められた…? へこむなあ… ちょっとグイグイしすぎたかも…ごめんね迅くん!」 小声で謝りながらドアに向かって手を合わせた… …よし春輝くんに渡しに行こう…! リビングに座っている春輝君が目について、 声をかけてみる。 「春輝く〜ん! 迅くんが旅行の資料作ってくれた!見て見て〜」 「ん、あぁ…相変わらず早いねぇ…… ってか、何?仲良くなったの?! …迅なかなか誰とも連まないから珍しいね。」 旅行の資料を持って驚いている。 「すっごいタブレット捌きだった… そうなの?たくさんお話出来て楽しかったよ 仲良くなれてたら…いいなあ…」 「タブレット操作よりパソコン異常だよ? …前に迅と出会った頃か… まだ仲間じゃなかったんだけどね横目に見たときドラマとかアニメの世界にいる気分になるぐらいめちゃくちゃ早いの。 頭の回路どうなってんだか。 天才とか信じてないけど… そーいう感じなのかね…むしろ怖かったわ。」 そう言った後に複雑な表情で 「ん?リビングにいなかったなら絢世の部屋にいたの?」 …目を細めながら不思議そうに尋ねられた。 「そうなんだ!? 今度見てみたいなあ、俺もきっとそんな気持ちになるんだろうね… ううん?迅くんのお部屋に居たよ〜?」 「ゲームやってるみたいだけど、 部屋に篭りっぱなしだしなぁ… …は??? え?…まじか…部屋入られんの嫌がるんだけど…珍し…、、、、 俺でも入ったことねぇよ??」 春輝くんが旅行の資料を見てうーんと悩んでから 「絢世…パシリ…とかじゃないよね? …気をつけてな。」 と困った顔で本気で心配するような顔をしている… 「ゲームかあ、俺PCとか家庭用のゲーム疎いから尚更訳分からなくなりそう… そういえば特別だよ〜って、迅くんから入れてくれた! 一緒にお菓子食べたよ …パシリ?!違うと思うよ?! …役立てるならパシリでも良いけど!」 パシリって悪いことなのか…求められて何かしてってすることを嫌だと思ったことは無いし… 「そういうのは苦手なやつ苦手だもんな。 特別…なーんか怖いなぁ… お菓子はあいつ好きだし しょっちゅう通販でなんか来てるよ。 ……つか、役に立つならパシリでもいい!?自分大事にしろよ??? マジでパシられるぞ?」 「ゲーセンならよく行くからまだマシなんだけどねえ…そんなに怖い?優しかったよ〜? お菓子好き一緒だから嬉しいなあ〜! 通販だと持って帰るの重くなくていいねぇ… うん?大事に…する! いっぱいパシられるのは流石にやだし気をつける〜」 春輝くんと仲良く話をしていると、 ふわっとソファに迅くんが現れる、 今、、気配あった? 「気をつけちゃうの〜? …さっき、絢世くんにケーキ食べようねって言ったのに渡すの忘れてた。 はい、春輝くんにもあげる♡」 目の前に二つおかれドキッとしてしまった、 確かに約束していたけど… 本当に物音感じなかったし… 「じゃあ、それだけだから♡」 と去ろうとするのを何事もなかったように春輝くんが 「突然だな…」と声をかけた慣れてるのかな? 「みんなの会話、大体聞いてるからね♡」 「そーいうのやめろって…」 「だって、誰かに裏切られたら困るのは春輝くんだよ?」 「まぁ…そうだけど……あんま疑いたくねぇ…」 「でしょ?」 迅くんは冷たい目で静かに部屋に戻っていった… 上機嫌だったのに春輝くんと話してる時はやけに真剣だ…割って入れる雰囲気ではない… 「…じゃあ気をつけるの辞める! わ〜!ケーキ美味しそ〜!フランボワーズ〜! 迅くんありがと〜」 聞かれてたことは少しも気にならないけど… なんだか嫌な空気だったのを濁してみた。 …迅くんは春輝くんの事心配なのかな… 迅くんの言い分も春輝くんの気持ちも分かるから何とも言えない… 「絢世って、誰かに裏切られたことある?」 春輝くんがケーキを見つめながら一言発した… 「あるよ…?」 「あるよなぁ…俺さ、裏切られてることの方が多いんだけど、 やられるとやり返したり、 腹立つからボコしちゃうのね? 迅から、異常だったよって言われて気づいたんだよなぁ… 俺、裏切られんのすげぇ嫌いみたい。 …殺意が湧くほどに、 迅は、…割と昔から俺を監視カメラで見てたから… きになったらしーんだよねぇ…」 じっとケーキを見つめながら何かを考えてるようだ… 「裏切られるのはやだよね… 信じてたのは俺だけだったんだって虚しくなっちゃう… 殺意湧くくらい、 裏切らないって思ってたってことなのかな… 異常かはわからないけど怒りはするよね 迅くんそんな所まで見てるんだねえ…」 春輝くんの話を聞きながら ゆっくりケーキを口に運ぶ… 後でお礼を言わなきゃかな 「いや、全然…… 俺多分…、そういう衝動があるんじゃないかって。 言われなきゃ知らなかったけど、 迅曰く、BLACK OUTを服用した時の俺は、 殺人でもやりそうな感じがしたって言ってたし… …… でもね、 あんま記憶ないんだよ… 無意識にやりそうになんの。」 ため息混じりに、春輝くんもケーキを食べ出す。 「そういや、アプリ入れてなかったよな? 迅が作った携帯アプリ、 みんなの居場所がわかるやつがあってさ… 便利だから登録しといて。」 携帯を操作して見せられ、説明をされた。 「携帯の電源切ってる時は居場所わからないんだけどね。」 「そう…なんだ…? 無意識的にやっちゃうのかあ、 どうしてなんだろうね… 過去になにかあるとか…?でもないのかな… …とにかく俺は裏切らないね 俺は相手にどうこうしようってなったことがないから…自傷しがち… おっけ〜!すぐ入れる!」 春輝くんを真っ直ぐみて言った… 安心させたいとかって言うより本心だし… 楽しい居場所をくれたからこそ、裏切りたくない。 携帯を取りだしてアプリをダウンロードした。 「過去…」 春輝くんが携帯を触る俺をじっと見つめ暫く沈黙した後に、 「好きだった女が死んだ時、 …この世の人間全員死んで欲しいって思った… くらい… …かな… …ありがとな、別に仲間のことは信じて…… …信じたいよ?」 目の前に置かれたケーキを再び食べ始め、 ぼーっとしている… 「好きだった子……? あんまり掘り下げないでおく…ね? 信じたいって思ってくれるだけで俺は嬉しいよ、そんな事行ってくれる人居なかったし…」 携帯の操作をやめてケーキを食べながら春輝くんの様子を伺った… 「別に聞いても面白くない話、 …好きだなってなってた女が居て… …絢世はゆかりを知ってんだよな… 中学時代はゆかりと… ソイツとよく遊んでた… ゆかりの家ってね、 厳しい家でさ…… 俺が無理矢理引っ張り出して遊んだせいで 俺が好きだった女が… … ……殺された。 事故だって見せかけて、 殺されたんだよ。 あの時迷惑かけられないからって、 ゆかりは俺の前から消えた… そんなもん、 全部争って俺と居てくれればいいのにって 思って… 若かったし… みんな居なくなって凄いむしゃくしゃした… そっから、かな… なんか落ち着かない…」 不意に天井を見上げながら 「俺が俺じゃないような気がする。 だから、多分…… 今ここがあるんだよな…… 俺が1番落ち着く場所。 信じてもいいかなって思える人間しか…いない… でも迅が疑い続けてんだよ、 あいつが1番過去に俺よりも傷を負ってきたんじゃないかな… …… … 特に、今は…」 春輝くんの話、…そんなことがあったんだ… 「話してくれてありがとう… そんな事する人居るんだ… そんなのあんまりにも酷いな… この場所に居て、ずっと過ごしていけば春輝くんもだけど!迅くんも少しは傷が癒えたりしないかな…… 今…?」 “今は”という言い方に引っかかった。 どういう意味なんだろう… 「実はね、グループとかさ… こんな大きくするつもりじゃなかった。 迅は俺と2人で薬をなんとか出来ればいい、 他を巻き込む必要無いって話だったんだよ。 最初の時は、 この家じゃなくて違うとこに迅と2人の基地みたいなのがあった… でも、 俺が増やして行っちゃったし… この場所を作ったんだよ。 だから、アイツは あんまりみんなのことよく思ってないわけ… 実際のことは、 …何考えてるかわかんないけど… もしかしたら、 唯一絢世は薬を作ってくれるってのが他より迅にとっての付加価値とかなのかなって思ったんだけど…、、、 それって虚しいよな… ……って、こんな話するつもりじゃなかったけど… なんか、絢世が心配になった。」 困ったように笑いながらケーキの最後の一口を頬張って「ごちそうさま。」と春輝くんが手を合わせた。 「2人の予定だったんだ…増えたねえ…」 思わず苦笑いして春輝くんに合わせるようにケーキを食べ終える。 「迅くんにとって、 俺がどんな存在でも虚しくないよ? だって今まで何も認めて貰えなかった… 春輝くんたちが居なかったら俺はこれからも何の価値も無い人間以下だ …でも心配してくれてありがとう」 少し大きめに残っていたので、無理矢理口に入れると少し喋りづらかったが…飲み込むようにして 「ん!ご馳走様でした」と春輝くんの真似をして手を合わせる。 「そうだよな…… 11人はやりすぎたか? …でも普通さ、チームとかってもっと人数居たりすんだよなぁ…、、、 …まぁ、ちょっとチームにするの、 迷ってるけど。 はは、絢世ってなんか、 捨身だよな。 ……なぁ、価値はお前が決めるもんじゃ無いよ。 絢世、 絢世の価値は俺たちが保証するし、 多分自分が思ってる以上に… 絢世のこと認めてたり好きだってやつたくさんいるから、 そんな風に言うなよ。」 立ち上がりながらぽんぽんと頭を撫でられる。 まだ口の中にケーキがちょっと残っていたのでお茶を飲んでいた。 「あ、悪い…ついやっちゃうんだよな… 絢世見てると。 …迅の底って俺でも測れなくてさ…だから何があったら困るし、? つか、困ったら言って… 話いつでも聞くから。 じゃ、そろそろ寝るな。 絢世もゆっくり休めよ。」 喋れずにお茶の入ったコップを持っていたせいか、2人分の食べ終わった皿を持ってシンクの方にいってしまった。 「そうなの?十分多いと思っちゃう… チームかあ…春輝くんのしたいようにすれば良いと思うよ? 春輝くんがそう言うならそうなのかもね… たくさん撫でてくれていいんだよ〜?」 冗談まじりに笑いながら声をかけつつ、 「迅くん俺は好きなんだけどなあ… でも何かあったら頼るね! ありがとう、お休み! あ、…お皿荒い任せていいの…?」 「いいよ、 食洗機あるし楽だから… …迅も危なっかしいとこあるからさ、 絢世が助けられそうなとこは助けてやってよ。 …変に強がりなとこも… あるからさ。」 食洗機を回す音がして、 春輝くんが部屋の方に向かって行った… 歯を磨いて身支度して…トイレを済ませて… 自分の部屋に戻ると ベッドにねっ転がりタブレットを触ってる迅くんがいた… 「あ、ケーキ美味しかった?」 嬉しそうに手を振ってくる… 「あれ?迅くんだ〜! うん!すっごく美味しかった! やっぱりフランボワーズは可愛い味した」 「あれは、可愛い味に入るの? ……甘酸っぱいのかなって思ったけど… ふーん…メモしておくよ。」 横に行き覗き込むと 迅くんが笑いながらタブレットにメモを表示してちゃんと可愛い味について打ち込んでいる。 「あぁ、 一緒に寝ようかって言ったのに、 追い出しちゃったから絢世くんの部屋で待ってたんだよ♡ 嫌だった?」 「確かに甘酸っぱいけどね! ううん、嫌じゃない〜! 嬉しいな」 ベッドに腰掛けてみる。 …この後どうするんだろう… 「でも、イチゴより僕はフランボワーズとかブルーベリーが好き…… 全部好きだけど、サンドイッチとかブルーベリー選んじゃうんだよね…」 タブレットを机に置いて腰をかけた俺の服の袖を引っ張って 「ねぇ、早くお布団入ってよ。電気消して?」 と強請ってきた…可愛いところもあるんだなぁ… 「ブルーベリーも美味しいよねえ、 お菓子とかだとイチゴ味が多いからブルーベリーの物見るとつい買っちゃう あはは、わかった」 リモコンを操作して電気を暗くし布団に入る… 久しぶりかも…暗い部屋。 お父さんとか、お兄ちゃんになんかされる時と同じ…心臓が痛くなる… 「…本当は暗いの苦手だけど迅くんが居るから大丈夫そう」 「……暗いの嫌いなの? …じゃあ、 良いもの見せてあげる。」 軽く手を伸ばしてタブレットを操作すると部屋いっぱいに星と魚が投影され波の優しい音がした… 「僕が作ったの… …このタブレットに、プラネタリウムとかアクアリウムを入れたから…これで暗過ぎないよ?」 俺の横に潜り込んで腕に捕まりながら 「……寝れそう?」と優しく聞かれた… 「わぁ!すご〜い!…綺麗……」 思わず天井に向かって手を伸ばしていた… 映像だけど、 部屋に広がる綺麗な世界に眠るなんて勿体なくなる… 「迅くんすごいねえ、 こんな事もできるんだねえ! …これなら寝れそうだよ…ありがとう…」 横を向くと優しい顔だ… 春輝くんが心配するような人にも見えないし… 凄く…居心地いいんだけどな… 捕まえられた腕とは逆の手で少しだけ迅くんに触れてみた… 迅くんは触れられて一瞬驚いているが、 触られた手をとって握られた。 「本当は、おもちゃとか…シアターとかに力入れたいんだけど… 全然そういう企業じゃないからね… これは趣味だよ。」 天井を見上げて困ったような複雑な表情をしている…やりたいこと、出来てないって事かな… 「おやすみ♡」 そのまま目をつぶって静かに眠りに落ちるのを横目に見ていた… 「確かに意識してなかったけど東明ってそういうの出してないかも…? 趣味かあ、それにしたって本当に綺麗だよ… おやすみ〜」 ……暫く寝たふりをしてみる… 波の音と、小さな寝息… …綺麗な顔…だなぁ… じっと見つめてしまう…… はぁ…と何故かため息が出る。 この場所に来てから楽しいことばかりで、 現実から目を背けたくなる… 天井を名残惜しそうに眺めてから 目を閉じて眠った… ずっと… ここに居たい… 迅くん… “行かないで” … あれ?…ハッとした時には、夢現になっていたのか、何人も目の前に人が倒れていた。 ひとりひとりの身体を探って這いつくばりながら迅くんが何かを探している。 「…何、、、…してるの?」 「絢世くんおはよう、ちょっとね…」 「?」 歪んだ顔をしている…なにか…キツいのかな? …あれ? 不意に視線を迅くんの足元に移す… 血が…、、、 「迅くん!!!?」 慌てて立ち上がり迅くんに触れる。 「大丈夫…軽く刺されただけだから…コイツらナイフ持っててね…… カードキーを奪われたんだけど必死で… 見失っちゃってね」 「こんな人数居たら仕方ないよ…どうしよう」 俺が慌てていると迅くんが手を取って宥めてくる。 「落ち着いて…?あの、僕のパソコン取れる?…立ち上がるのキツくて」 「わかった」 パソコンを棚の上から取り迅くんの前に持ってくる。隣で止血をしながら画面を覗き込んだ。 凄い速さで何かを打ち込んでる… まるで呪文みたい…目が追いつかない… 「あった…」 エンターキーを押した瞬間、画面に映像が広がる ん?俺たちが映ってる…? 「これで…」 映像が巻き戻るのをみてハッと上を見上げた。 監視カメラか… 映像から戦闘している迅くんの動きがまるで人間という概念を超えてるように見えた… サーカス団か何かを思いださせるような空中に飛び上がる対空時間も、壁を蹴り上げる速さも… 普通じゃない。 凄い…身軽… それでいて不思議な機械を使う…… 敵に回したくないのと… これなら確かに春輝くんと2人でチームを組むって考え方したくなるのもわかる。 だって…… 「……俺のこと…かばって…る?」 思わず口に出てしまった。 「見ないでよ」 迅くんが俺を遠ざけようとするが「嫌だ」と我儘言って手を遮った。 その瞬間、映像からガンッと銃声が響く… !?? 避けてない……? 「ほら、やっぱり俺のこと庇って…避けてない」 「…ッ…」 迅くんが唇を噛んでいた。 図星なんだ。 俺自身がこの乱闘の中で 全く怪我してないのが不思議だった。 ……俺が足手纏いになっちゃったんだ…… 「まぁ、銃なんか効かないから」 「?」 映像を見てびっくりする… 歪んだ弾丸がパラパラと落ちた… なに?どういうカラクリ…?? 「ここだ!!!」 その瞬間、迅くんが一時停止をした。 一人の男が服に手を伸ばしカードキーを奪うのが映っていて、正面を二人して見る。 ーーー   居た! 「絢世くん、行ける?」 「行ける」 急いで人の間を踏まないように歩いて行き、 男の服を漁る… あった…カードキーだ… 「早く」 「うん!」 そうだよね、 こんな状況でさらに人が来たらまずい。 迅くんの映像を見てる場合じゃないんだ。 でも気になる… なんで俺気を失ってたんだか… こんな状況なのに惜しくなる… 「……どうすればいいのか」 そんな俺の気持ちを無視して、 迅くんが金庫の差し込み口を見ていた。 「パスワードは簡単なんだよね…ただ、差し込み口が2箇所あるから…」 「2個…」 不意に俺がカードキーをみる、 やってもいいかわからないけど… もしかして… 右、左、? ちょっと斜め?…引っ張るのは…どうかな… あ… 「割れた!」 「え??」 俺の手元にあるカードキーは2枚になった。 綺麗に白と黒だ。 「はは、絢世くん…本当…君…面白いよ」 「よかった…どっちに差すのかな?」 「それなら、見せて」 ゆっくり立ち上がって差し込み口とカードキーを見比べガチッと手早く迅くんが入れ込んだ。 3回点滅を繰り返し、 金庫の扉にデジタルの数字が浮かぶ… 「確か… 0… 7 …14」 カチッと金庫が開いた瞬間目の前にあったのは、 ひとつだけ中央の机にUSBと通帳とキャッシュカードだった。 これだけ? 「ビンゴだね」 迅くんが嬉しげにそれに触れた瞬間、 急に煙が出る、 「マズイ!!」 迅くんの声にドキッとしたのも一瞬… 「僕のパソコンの右上の赤いボタンを押せ!!!!」 そう叫ばれ慌ててボタンを押しーーーー… !?!!!!!!! 押した瞬間、物凄い爆発音が響くと一緒に、 パソコンごと迅くんが俺を強く抱きしめたように思う… 世界が、真っ白だし…煙が凄くて… よくわからない… ただパソコンを大事に抱きしめるしか出来なくて。 暫くゴゴゴゴゴゴ… と地鳴りのような音が聞こえてるだけだった。 怖い。 でも迅くんの腕が俺を捉えてくれてる、 強く抱きしめてくれてる。 それだけで充分だった。 …… ふわっと顔に温かい風が撫でるような感覚。 空気が…変わった? 「死ぬかと思ったよ」 迅くんの声にゆっくり目を開けると… うわっ… まるでブラックホールのような穴が足の下にある。 身体が…浮いてる? 「…絢世くん、、迅くん!!?!?…これ君達の仕業?!?」 ハッと俺が上を見たらそこには学くんがいた。 いる位置が…やばいでしょ… 半分綺麗に半壊してるビル… しかも、傾いてる… 真っ二つに割れたビルにギリギリ一本の紐で俺も迅くんも吊るされてる状態だった。 「絢世くんに設置してもらってた起爆装置の威力…こんな感じなんだよ♡」 「……本当…に?」 「本当に」 アニメや漫画に出てくるような…そんな異常なものを…どうやって作ってるのか…入手してるのか… 迅くんって…何なんだろう、…テロ阻止?? 「今あげるから!」 命綱なのか、上手く引っかかってる紐を土屋くんともう1人誰かが引っ張ってくれていた。 「…絢世くん、青いボタンも押せる?」 「え、え…なんか嫌だ…」 このボタンで何人もの人が死ぬみたいな主導権なんだよね…? それは荷が重い… 「僕の言うこと聞けよ、助けてやったんだから…絢世くんは僕の言うこと…聞けるよな?」 「ッ…は…はい!」 思わず耳元で言われてゾクゾクしてしまった。 恐る恐る青いボタンを押すと爆音と熱い熱風がちょっとだけ離れた場所から噴いて俺の体を包み込む。 ブワッと吹き荒れた風にぎゅっと俺を掴む迅くんの手が強まるのを感じて嬉しくなっていた。 こんなに、強く守られてるの… はじめて… パチパチと音がするのをゆっくり振り返ってみると反対の建物が火事になっている。 え?流石に安心してる場合じゃない… 「迅くん!!!」 「ふはっ…びっくりし過ぎなんだけど」 今までになく笑いながら迅くんが嬉しげに言った。 喜ぶところじゃ… ……不意に火を見つめる…でも、なんだろう… …綺麗… 迅くんが作ったという夜寝る前に見せてくれた星や魚みたいに……非現実的に見える…… 火が登るビルを不謹慎にも綺麗だと思ってる自分もいた… なんか…楽しい…かも… 迅くんに釣られて俺の口元が笑ってしまう。 「絢世くんも僕と一緒の気持ちみたいだね」 「え?」 体が引き上げられ、 知らない男の子が俺に「有賀、有賀雄輔!」とひとこと言ってくれた。 俺が不思議そうに見ていたから挨拶してくれたんだ… 「橘絢世」 とひとこと言うと、 「話は聞いてる…薬作ってくれてるんだってな、ありがとう」 見た目は怖いが優しく笑いかけながら言ってくれた。 「迅くん!あれは、やりすぎでしょ!!!」 学くんがビルを指さして慌てていた。 「なんで?」 「なんでじゃないよ!!!やばいよ!!!」 「いーでしょ?…カモフラージュなの」 「いやいやいやいや!??」 そんなやりとりを見て俺が笑ってると、 雄輔くんが俺の肩をポンッと叩いて。 「お疲れ」 と眉を寄せて困り顔で言ってくれた。 確かに…ドキドキしたりスリルがあったし… …疲れたかもしれないけど… 「ありがとう、楽しかった」 言っちゃいけないかもしれない、…のに、 本音が出た。 楽しかった。 満面の俺の笑みと発された言葉に目があった迅くんが嬉しそうに笑ってる。 …なんだろう、…… この感じ、迅くんに近づけた? 今までと、なんか違う気持ちになる。 「!」 不意に全員の携帯が鳴った。 ピッと学くんが携帯に出ると一斉に止まる。 『逃げるよ!!!…トラック!!飛び乗って!!』 雅人くんの声だ! クラクションが外から鳴り響く… 思わず顔を全員で外に覗かせると、遠くからトラックが走ってきている… ーーーー   え、飛び乗る??! 「えー!無理ない??!」 学くんの言葉に、僕もうなづきたくなったが、 パッと迅くんが手を繋いできた。 「飛ぶよ」 ……ーーーー 思わず俺に小さく呟かれたその声に、さっきまでの不安は無くなっていた。 迅くんとなら、…飛べる気がする。 間近に迫ってきたトラックに向かって、 迅くんに合わせて飛び乗る。 そのタイミングで学くんや雄輔くんも飛び出した。 …赤い炎と青い朝焼け……不思議な空の色… でも、混ざり合った紫色のコントラストに、 鮮やかな世界に、目が奪われる。 ドンッとトラックに乗ると 「ザキーーー!ガミーー!!!」 と雅人くんの声に、また2人飛び乗って来た… 運転手や運転席に3人… これで10人… 「春輝くんは?」 俺が口にした瞬間、 雅人くんが携帯を操作している。 「この上か…忠犬止めて!!!」 「お、おう…」 「…春輝さん…出ないなぁ、、、」 雅人くんがイライラしてるのか、 足踏みをしている。 背が低いから、その動きがなんだか可愛い… 「はぁ…」   そんな姿を見て、隣にいた迅くんがトラックを止まったのを良いことに寝そべる。 そうか、怪我して…たんだよね? あれ? 不意に止血した筈のハンカチが無いし… 血が…出てない? 「迅くん…怪我…」 「あぁ、してないよ?絢世くんの驚いた顔が見たくて♡」 「え、え!?本気で心配したのに!!!」 俺が迅くんに手を伸ばそうとした瞬間、 「お前が絢世…ちょっと見て…欲しい…」 そう言って体格の良い男が俺の前に一人の少年を引っ張って来た…凄い頭から血が出てる。 「ザキッ…平気だって」 「ダメだよ」 そのやりとりを見ながらそっとザキと呼ばれた少年の頭に触れる。 「軽くでも頭殴られたら後遺症とか残ったりするからちゃんと病院は行くべきだけど…それほど見た感じは平気かな?…ちゃんと包帯するね」 「…お、おぅ…あり…がとう…俺はガミって呼ばれてんだけど佐上」 「あ、あ…俺はザキ…八崎」 と言われた瞬間また雅人くんが声を上げた。 「来た!!!…忠犬、ヤバい、加速!」 「はぁ!?え!?」 運転手が驚くのも仕方ない、 屋上から春輝くんが飛び降りてこっちに向かって手を上げてるんだから。 高ーーーーーー、、、! 死ぬよあんな高いとこから飛び降りたら…、、 キュッとタイヤの擦れる音が響いて身体が揺れる、 振り落とされそうな瞬間、 ぐいっと迅くんに引き寄せられた。 …楽しそうな横顔……凄く綺麗に笑うから… こんな状況なのにドキドキしてる。 、加速したり、右に揺れたり、左に揺れたり、 酔いそうなのとかはどうでもいいくらい、 みんなが春輝くんに注目してた、 いける、 行ける気がするッーー 3   … 2 1 ガンッ!!!! 春輝くんが着地した瞬間の歓声は未だに耳に残っていた… これが、“GHOST”の結成日   ーーーー … 帰宅すると、みんな疲れたのかバラバラに散る。 俺は興奮しているのか、 何かしたくて仕方なくて、 順番で回って来た風呂場に 少し時間より早く足を運ぶ。 …… ちょっと早かったせいか、 そのタイミングで脱衣所に迅くんがまだ居た。 「あれ?次は絢世くんだっけ…?」 “生きてたら、甘やかしてあげる” 急に反復するように言われた言葉が浮かんで 言葉が出なくなった。 甘やかして…くれるんだっけ? 「なに、ぼーっと…して……」 迅君が俺に話しかけてる最中で急に言葉を止めた。 「…それは、僕にしてほしいの?それとも…」 「え?」 勃起してる…、、!? 生理現象だと思いたいのに顔が真っ赤になった… 熱い、、、確かに脱衣所だし?? 若干熱いけど…それだけじゃない… 迅くんが俺に近づいてきてズボンをおろしてくる 「まっ…誰か…きたら//」 俺が迅君の手を遮ると「みんな時間合わせてずらしてるからそれは無いよ?」 …なんてごもっともな言葉。 うわぁ…恥ずかしい…、、 触ってくれるなら、… 迅くんならいいかな… 触れられる手がなんか、嫌じゃ無いんだよね… 「そんなもの欲しい顔されたら困るね」 「え//」 して、してない…よね?え?そんな顔してた? 訳がわからなくなる気持ちに手で顔を隠す。 お父さんにだってお兄ちゃんにだって… 別に…されてたし…、、 何も違わないよ? 違わない…はず… なんでこんなドキドキして、、、 指の隙間からそっと迅くんを見やると、 優しく微笑んでた… …ヴわぁ… 芸能人なだけあるよね… 顔が良すぎて… 直視できない// いいの?これ…?ありなのかな… 「ふふ、誰かにたくさんされてたんでしょ?」 不意にシャツを少し脱がされ鎖骨にある痣に触れられた… そこ…は…家族によくキスされたり噛まれてた所で… ビクッと震える俺に迅くんが不思議な顔をしていた… 寒気が走ったからだろう 凄い顔が引き攣ってるのかも。 「…慣れてる訳…じゃないのかな?」 少し悲しい顔で首を傾げて俺の唇に迅くんの唇が触れるか触れないかのとこで止められた。 「っ///」 キス?され…る? …なんで? 「ふふ…目を瞑ってたら、本当にしちゃうよ」 吐息が当たる…近い…、 どう…しよう 「へい…き…//」 心臓が苦しい…されても大丈夫というか…… 寧ろされ…てみたい?かも… 「早くお風呂入りなよ、次の人来ちゃうから」 すっと迅君が離れてガクッと身体の力が抜ける。 うわぁ……俺何考えてんだろ、、、 これ、どうしよう… 何も言えずに迅くんが去っていくのを見守るしかなくて… 風呂場で自分で扱くしかなかった… 一人でやったことなんか…無いんだけど… なんだっけこれ…自慰…?? うわ…恥ずかしい…こんなとこで… 「やって…欲しかった…//」 そんなやましい気持ちが出て来てしまう事に更に恥ずかしくなって頭を洗い終わってもシャワーを浴び続けるしかなかった。 汚い…よね? こんな俺…嫌だな…、、 されることが嫌でしょうがなかったのに、 されたいなんて…、、、 この気持ち、なんとか消さないと… まずい…合わす顔が無くなっちゃうよ… 思わず自分の唇をなぞる。 あのまましてたら、 どんなキスだったのかな… …知りた  い       …ーーーー ガチャ… 部屋に入り鍵をかけ布団に飛び込んだ。 「…本当、笑っちゃう」 微笑みながらモニターを見る。 封牙ってやつが速川と体を重ねてるのを何度か見た…… あぁ、ウザいなぁ…… 外の情報も入ってくるから、 本当、… 見かけるたびに目障り。 嫌い。 人の不幸は蜜の味、人の幸せは反吐が出る。 本当に嫌いだった。 心底…そういう甘ったるい感情を持った人間が… …夢ばっか見て馬鹿らしい。 夢なんか見ても、 叶わないのにね。 … じっと見つめた画面の先に“ナオヤ”ってやつの姿が映る。 春輝くんの跡を…つけて… …部屋に入っていった? あーあ、どいつもこいつも…… モニターの電源を切る。 本当に、ムカつく…… … それは手に入らないものだから。 イライラして仕方ない。 …僕は完璧だから手に入らないものなんて… 無い筈なのにね ーーー…? 絢世くん… 僕と一緒だと期待してたんだけど…… あの、目 … みんなと同じ甘ったるい目をしてる。 …僕に向けたら…いけないのにね? …可哀想に… …… …あぁ… …可愛いね… 不意に唇に触れる。 僕に溺れさせて、 全部コントロールしたくなるなぁ。 あのまましてもよかった… 絢世くんの脳まで奥深くまで、全部。 …欲しい。 …欲しい… …それで、僕の手となり足となり… なんでもやらせたい… 可愛がって、 めちゃくちゃにしてみたい… …… 飼いたい。 なんてね  ーー… ♪ …… コンコンッ…と小さい音がした。 ノック音… モニターの電源をつけてみると、 絢世くん? その傷だらけの身体に塩を塗り込んで、 痛みに痛みを覚えさせて。 それを幸せだと思わせて。 … 「…依存させたい…」 小さく呟いた。 …駄目だとわかってる。 なんせ僕も絢世くんも決められたレールの上を歩かなきゃいけない人間だから。 それは、本当に? … 遠隔で部屋の鍵を開けると、 ひょっこりこちらをのぞいてくる。 うさぎだっけ? …似てるね、確かに… すぐにでも死んじゃいそうな君… 「…さ…さっき…その…、、///」 「約束してたね、…甘えてみる?」 絢世くんがベッドにいる僕に駆け込んで抱きついて来くるから、 それでいいんだよ、僕の…… 「!?」 予想外だった、 絢世くんから…突然キス   ーーーー    ? 「し、したくなっちゃった//」 真っ赤な顔が面白くて、 ドッと布団に押し倒した。 あぁ、面白くて仕方ない。 僕が予想していた以上に絢世くんは面白い。 「…よくわかったよ、僕にとっての“可愛い味”」 「え??」 それだけ言ってベッドの上に押し倒した絢世くんの腕を強く掴みながら身動きを取らせないようにして、優しく唇を奪った。 優しく…優しく… 甘やかしていくように、 絢世くんの舌を舐めて、柔らかく… 解して、優しく触るみたいに… 溶けてしまいそうなくらいに、 ゆっくりとじっくりと長いキスーーーー 「迅…くっ…//」 …喋らせないよ…? ………、絢世くん、 君は今日から僕のものだ。 君が後悔しないって言ったんだから、 ーーーーーー    離さないよ。 END
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