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 木々がそれぞれの色を身に纏う秋、 とある地域の公民館で、老人と高校生の孫が双六に興じていた。 ところが、場の雰囲気は和気あいあいには程遠い。 「6が出ればゴールじゃな」 皺の刻み込まれた掌から放たれた賽子(サイコロ)は、願い通りの出目を見せた。 「よしよし」 ほぼ新品の白い駒をスタート付近に取り残し、 年季の入った傷だらけの黒い駒がいそいそとゴールに到着。  「くそ、また負けかよ」 「秀一(しゅういち)は本当に双六が下手じゃのう」 「双六はただの運だから、下手とか上手とかないよ」 老人は駒を片付ける手を止め、嘆く孫を語気を強めて諭した。 「まだそんなことを()かしておるのか。  それでは、いつまで経っても強くはならんぞ」 「じゃあ、あと他に何があるって言うんだよ」 ゆっくりと開かれる老人の口。そこからはいつも決まった言葉が出てくる。 「精神を落ち着かせてみるんじゃ。それが極限に研ぎ澄まされた時には、  賽子が自ずと応え、狙った出目になる」 「いい加減にしてくれよ、じいちゃん」 その話は聞き飽きたと言う風に、秀一はまるで取り合わず玄関へ向かう。 「明日が全国大会の決勝戦じゃろ? 日本一になって帰ってきておくれ」 彼はろくに返答もしないで、そのまま公民館を後にした。 「俺にとっちゃ、双六なんてただのお遊びさ」  秀一は目指す場所へ歩きながら、何とか自分を傷つけまいと言い訳をする。 けれども実際、彼の胸中は虚ろな不安に満ちていた。
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