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第十八話『殲滅の果て』 2
女たちはするりとロウに擦り寄って、甘くねっとりとした声色で誘い込む。毒を含む女の誘い声だ。耐性も無く、まして雄であるならば一瞬で引きずり込まれてしまう蜜の罠。そうやって彼女たちは己の声を使うことを望まれ、望まれるまま使ってきたのだろう。
小さく縮んだ指先や、傷を負った肌を見れば、決して良い暮らしの中で生きてきたわけではないことがわかる。あの怪物たちが生み出された経緯もまた、筆舌に尽くし難いものだったはずだ。
「……ね?」
それでも、彼女たちはそれを受け入れている。
これが当たり前で。これが彼女たちの世界で。受け入れ流され、その中で満足して。抵抗もなく生きる道を選んだのだ。
苦しみを当たり前に受け入れ、普通に変える。ある意味では賢いと言える生き方だが、とても残酷なことだとロウは胸の内で呟いて、ひとつ息をついた。
「……残念だがお嬢さんたち。俺には先を急ぐ用事があって、帰らねばならんところがある。お前さんたちと、遊んでいる時間はないんだよ」
おや、という顔で女たちはロウを覗き込む。
「声が効かないのね。……貴方。そうか、さっきの……狼さんたちに耳を塞げと言って聞かせてたあの声は、貴方の声だったの」
「てっきり、あの雄の子の声かと思ってたけど。貴方も私たちの同類なのね。……あら、それだと気持ちのいいまま殺してあげられるかしら」
「どうしましょうね。それなら、…………どうも、しなくていいかしら」
構わないかと、女たちが口をそろえてにたりと笑う。ロウを掴んでいた手に力が入り、ロウは女たちに抑え込まれてしまった。
視界に入るのは獲物を喰らおうとする獣の口。ずるりと黒い影を溶かして、女たちが獣の形へ変わる寸前だった。
覆いかぶさるように影が落ちる。白銀の獣は怯える風でもなく、静かに告げた。
「……ここで、終わりにしよう、お嬢さんたち」
女たちの腕を振り払い、ロウは右手の爪の先に神経を行き渡らせた。大きく強く振り払われた爪の先は風の刃を生み出すよりも早く、女たちの喉を掻き切った。
勢いよく噴き出す血の色を白銀が受ける。二人が声も無く倒れると、数度もがいて動かなくなった。
一人は一番浅く爪の刃が入ったのだろう、まだ息を継ごうとするのか血泡を吹いて苦しんでいた。その女の細い喉元に手をやると、ロウは鋭い爪を突き立てた。
「……すまんな、いっときでも苦しめちまった。……今楽にしてやる」
鈍く骨の折れる音がして、それきり女は動かなくなった。
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