第十九話『決意』 1

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第十九話『決意』 1

 ルプコリスから始まった騒動は終息を迎え、谷を包んでいた濃霧が消えるように、大河に満ちていた言い知れぬ不安感のようなものも消え去っていた。  今は沈んで隠れている赤い大月は、完全に満ちるまでにあと数日。起潮力は最大となり、大河を遡る水量が増えていくにつれ行き交う船の大きさも数も増していた。  見慣れた顔に、見知らぬ船。山のもの海のもの、異国の品に馴染みのある物。それぞれがリーパルゥスへと集まり始める。二つの月の満月の日から始まるリーパルゥスの水上大祭を目前に、王都周辺では一足早く水上市が開かれ始めていた。  月の運ぶ海の水で生まれ出た大きな汽水の湖を眼下に眺め、国の主の座す城にはルプコリスから届いた書状に目を通す国の主、トキノと、先にそれを読んで軽く頭を抱えているロウがいた。 「……ふむ」  書状には、捕らえられたフォロゴのその後と、詳細、時を置いて判明したいくつかの事が記されていた。半分は事務的に記された、おそらくはコルナウスの書記官職を務める者が書いたのだろうもので、そしてもう半分は署名捺印の押された紙に丁寧な筆跡で記された文であった。 「この筆跡はアウルクス様のものだね。……なるほど、ふふっ、これは大分お困りの御様子だ」  トキノがそれを読み終えて笑みを浮かべる。視線を向けられたロウは困っているのはこっちだと言いたげに大袈裟なため息をついた。 「あのお方らしいと言えばらしい行動だが……、俺はついこの間、あの人は王座にあるべきだと諭したばかりなんだぞ……それがなんでまた」  ロウが頭を抱えているのは、アウルクスからの礼状に書かれた内容からだった。 「長年追われていた物事が片付いたのだもの、……アルグ殿にはまず、休息が必要なんじゃないのかね。……そんなに頭を抱えるなら、ここで私に口説くのでなくお前たちで話し合う方が良いのじゃないか?」  今夜には水上大祭の来賓として、ルプコリスとヴァリスコプの両王がリーパルゥスに訪れる予定である。 「これによれば、今回アルグ殿はあくまで従者の一人として訪れるようだから、適当に理由つけて城塞側で部屋を用意してさしあげたらいい。それなら話す時間も取れるだろう?」 「そのつもりで返答してる。……悪いが、今夜のお前付きの警備は俺じゃなくなるが、問題ないか?」 「もちろん。アウルクス様もヴァリスコプの姫王様もわかってくださるさ。警備役は城の警備に就いている者たちだけで充分。……お前たちはゆっくりお話し」  トキノは言うと、書状を丁寧に畳み込んでロウへと手渡した。 「それと、コレに関して私の意見はアウルクス様に同意する。その旨、アルグ殿にも伝えておくれ。……後の細かいことに関しては、お前に任せる。まとまってからでいい、後で報告するように」 「わかった。感謝する、トキノ」
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