花が降る

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花が降る

 頬を海風が撫でる。耳元でひゅう、と空気が唸る。ミリーは瞬きもせずに暗い夜空を見上げていた。ミリーだけではない……その場にいる誰もが、無言で空を見上げていた。  新月だからか、星がいつもよりも綺麗に見える。満天の星空とはこういうことを言うのか、と改めてその言葉を噛み締める。  村の外れ、海に飛び出した断崖絶壁に村の住人が集まっていた。  眠りこけている赤子を背負って真剣に夜空を見上げているのはシンラさんの奥さんだ。シンラさんは六歳、五歳、二歳の子らを連れている。眠たげに目を擦る二歳のラシアは、大きく欠伸をすると手を繋いでいる姉のフルワに話しかけた。 「ばばさま、来る?」  ラシアの問いかけにフルワが強く頷く。 「来るよ、今夜は送り花が開くんだから。百年祭だもの」 「フルワ、眠いよ」 「もう少しだから我慢して。ばば様に会うんでしょ」  眠い目を懸命にこじ開けるラシアを案じて、シンラさんが彼を抱き上げる。 「もうちょっとだ。お父さんが抱っこしててあげるから、眠かったら眠りなさい」 「大丈夫だよ、ばば様に会うんだから眠らない」  シンラさんは力持ちだから、きっと帰りはラシアと五歳のミカバを抱っこして帰るのだろう。フルワは大丈夫かな。六歳だからきっと大丈夫だ。自分よりも二つ年下の幼馴染を案じつつ、ミリーは空を見上げた。  雲ひとつなく、月の光がない夜。降るような星々の中、時折箒星が夜空を舐める。 「お父さん」  ミリーは隣にいる父に声をかけた。 「なんだ」 「後、どのくらいなの」 「わからん。どうした、眠くなったか」 「たくさん昼寝したから眠くはないんだ。ただー」  ミリーはそこで言葉を切った。  百年に一度、亡くなった人の魂を乗せた花が真夜中に天から降ってくる。それは送り花と呼ばれ、この村に代々伝わる百年祭の元になった言い伝えだ。  昼間はさまざまな出店が出て百年祭を祝い、夜は村はずれの崖に出向く。そこに亡くなった人の魂を乗せた花が天から降りてきて、再会を果たせるのだ。  だが、実際に花が天から降りてくるのを見たものは、村にはただ一人しかいない。
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